野分 その九
「御殿の瓦まで吹き飛ばしそうに風の荒れている中を、よくまあこうして訪ねてくださったことよ」
と大宮は震えながら、一方では喜んでいる。
以前はあれほどところ狭しとばかり満ち満ちていた威勢も、今は衰微してひっそりとなり、この夕霧だけを頼りにしているのも、無常の世の中というものなのだろう。とはいっても、今でも世間一般の声望が薄れたわけではない。ただ子息の内大臣の態度は、孫の夕霧より、かえって少しよそよそしいように見えた。
夕霧は、夜通し吹き荒れる風の音を聞くにつけても、何となくしんみりと心が沈みこんでいく。いつも忘れることなく恋しく思いつづけているあの雲居の雁のことを差し置いて、今日はじめて垣間見た紫の上の面影がどうしても忘れられないのを、
「いったいこれは何という心なのだろう。この上、道ならぬ恋心が起こったりすれば、とんでもない恐ろしいことになりそうだ」
と、自分でそんな気持ちをまぎらそうとして、他のことを考えたりするのだが、それでもやはり、ふっと幾度となく紫の上の面影が浮かんでくるのだった。
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