野分 その七

 光源氏が夕霧に尋ねる。



「夕霧はどこから来たのか」


「三条の大宮の御殿におりましたが、風がひどくなりそうだと人々が言いましたので、こちらが心配になって参りました。あちらでは、ここにもまして心細い有様で、大宮は、風の音さえ今ではかえって幼い子供のように怖がっていらっしゃるようです。お気の毒ですから、もうあちらに行かせていただきます」



 と言うと、



「ほんとに、早く行ってあげなさい。年をとるにつれて、また子供に返るなどは、とうていありそうもない話だが、どうも老人は誰でもそうなるらしいね」



 と、大宮に同情して、



「こんな大風でひどい空模様のようですが、この夕霧がひかえておればまずは安心と、夕霧にまかせて私は失礼します」



 と、伝言をことづけたのだった。

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