常夏 その三十七

 弘徽殿の女御に読んで聞かせると、弘徽殿の女御は、



「まあ、いやだわ。ほんとうに私の歌のように、近江の君がこれを言いふらしたらどうしましょう」



 と、心配そうな様子だったが、中納言の君が、



「それは聞く人が聞けばすぐにわかりましょう」



 と言って、手紙を上包みに包んで使いに渡した。


 近江の君はその返事を見て、



「趣のある面白いお歌だこと。松は待つという意味よ」



 と言って、とても甘ったるい薫物の香を何度も着物に薫きしめた。紅をほほに赤々と塗り付けて、髪を梳いて身づくろいしているのは、それなりに明るく陽気で愛嬌があるというものだ。


 弘徽殿の女御と対面の場合は、さぞかし何かと出すぎた振舞いもあることだろう。

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