常夏 その三十二
「ほらまた、あなたって、人の言うことをぶち壊すのね。ほんとに失礼ね。内大臣の姫と決まったこれからは、私の話に友達ぶってさし出口しないでちょうだい。私は今にどうにでも運勢の開ける身の上ですからね」
と腹を立てている顔つきは、親しみやすく愛嬌があって、調子に乗ってはしゃぎきっているところは、それはそれなりにおもしろく、大目に見て許せる。ただ、何分田舎臭く、身分の低い下々のものの中で育ったので、ものの言いようも知らないのだ。別に深い意味のない言葉でも声をゆったりと物静かに言えば、ふとそれを聞いても格別によく聞こえる。つまらない歌物語をするにしても、歌にふさわしい声の出し方をして、余情たっぷりに話し、聞き手にもっとあとを聞きたがらせるようにして、歌の始めや終わりを聞き取れないくらい、かすかに口ずさんだりするのは、深い歌の意味など味わわないで、ちょっと聞く程度の場合には、面白いなと耳にとまるものだった。
ところが、この近江の君の場合は、非常に深い内容の、由緒あることを話していても、この早口では、立派な内容があろうとは思えない。その上思慮のない軽薄な上ずった声で、言う言葉といったら、ごつごつしていて訛のある上、気ままでいい気になっていた乳母の懐で育てられた癖がそのまま残っていて、態度もひどく不作法だ。そのため品も下がる。といっても、まったく箸にも棒にもかからないというわけでもなく、三十一文字の上の句と下の句が、うまく合わない腰折れ歌を、即座に次々と何首も詠んだりはするのだった。
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