常夏 その十一

「内大臣なら、これ以上のすばらしい音色をお出しになるのかしら」



 と、実の親に会いたさの思いも加わって、こんな和琴のことにつけてさえ、玉鬘はいつになったら、そうして内大臣と打ち解けて弾くのを聞けるのだろうかと、考えるのだった。



<貫河の瀬々のやはら手枕やはらかに>



 と、催馬楽を、実にやさしく光源氏が謡う。



<親避くるつま>



 のところは、少し笑いながら、さりげなく掻き鳴らすが掻きの風情が、言いようもなく興深く聞こえる。光源氏は、



「さあ、お弾きなさい。すべて芸事は恥ずかしがっては上達しないものです。ただし想夫恋だけは、弾きたくても曲名に恥じて、心のうちに秘めて弾かない人もあったでしょう。そのほかの曲なら、遠慮せずに誰とでも合奏なさったほうがいいのですよ」



 と、熱心にすすめる。あんな辺鄙な片田舎で、どうやら京の生まれだとか自称していた、王族の流れを汲む老女に教えてもらっただけなので、間違いもあるだろうかと気が引けて、玉鬘は和琴に手も触れないのだった。

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