胡蝶 その十七

 光源氏は女房の右近を呼び、



「こんなふうにお手紙を寄こされる人を選び出して、お返事をされるようにしなさい。色っぽく浮気な今どきの若い人が、不都合なことをしでかしたりするのは、あながち男の罪とばかりは言えない。私の経験によって考えてみても、女からの返事がないと何と冷たい情けない人だ、恨めしい仕打ちをすると、そのときにはわからずやな女だと口惜しがったり、相手がさほどでない身分の女なら、身の程知らずの無礼なことをするなど思ったものだ。それほど執心しているというのではなく、花や蝶などにかこつけてさりげなく送ってきた手紙には返事もせず、相手を口惜しがらせるようにすると、かえって男の熱は掻き立てられることがある。また、女が返事をしないからといって、男がそれっきり忘れてしまうようなのは、女にとって何の罪があるものか。何かのついでぐらいにふと思いついた、いい加減な恋文にも、心得顔に早々と返事をするのも、まったく無用のことで、そんなことをするとかえって後でどんな災難を招く種にもなりかねない」

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