初音 その二十
光源氏は尼姿の空蝉のところにも、顔を出した。空蝉は、自信ありげにでしゃばるようなところがなく、身を隠すようにひっそりと部屋住みのような暮らしぶりで、仏にばかり広く場所を差し上げて、勤行に勤しんでいる様子も感慨深く思われる。経本や仏具の飾り、さりげない作りの閼伽棚の道具なども優雅で心が惹かれ、出家してもやはり気配りの見受けられる人柄なのだった。
青鈍色の趣味のいい几帳の陰に隠れていて、暮に贈った梔子色の袿を下に着ているので、袖口だけが、違った色合いでのぞいているのも、慕わしい感じなのだった。光源氏は涙ぐみ、
「<音に聞く松が浦島>の歌のように、はるかに思っているだけのほうがよかったのかもしれない。昔から辛い思いばかりしたあなたとの仲でした。それでもさすがにこうした親しいお付き合いだけは絶えなかったのですね」
と言う。空蝉も、切なそうな気配で、
「こうして尼になっておすがり申しあげるほうが、浅くはない御縁だとつくづく思い知られます」
と言うのだった。
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