初音 その十七

 ただ鼻の色ばかりが、春霞にも隠れそうもなくはなやかに赤々としているので、光源氏は気の毒とは思いながらもついため息をつき、ことさらに几帳を引き直して末摘花の顔が見えないように隔てをしている。かえって末摘花のほうはそれほどにも思わず、今ではいつまでもこのようにやさしくも変わらない心に安心しきって、心から気を許し頼りにしている様子も気の毒なのだった。器量だけではなく、こうした日常の暮らし向きの面でも、普通の身分ではないだけに、いたわしく悲しい身の上の人だと光源氏は思うので、せめて自分だけでもと、心にかけて世話するのもめったにないやさしい心がけだった。


 末摘花は声までいかにも寒そうに震わせながら話した。光源氏は見るに見かねて、



「お召物のことなど、お世話する人はございますか。ここは誰にも気がねない気楽なお住まいなのですから、もっとくつろいだふうにうなさって、ふっくらと柔らかなものをお召しになるのがいいのです。うわべばかりに取り繕ったお衣裳はどうも感心しません」



 と言うのだった。

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