玉鬘 その三十八

「光源氏様は、父帝の御代から、大勢の女御や后をはじめ、それより以下の身分の女君は残りなくご覧になっていらっしゃいますが、その目にも、今の帝の母后であられた藤壺の宮と明石の姫君の器量とを、『美人とはこうした人を言うのだろうと思う』と、紫の上に話していらっしゃいます。私がその方々と子の姫君を比べましても、あの藤壺の宮は拝したことはありませんし、明石の姫君はいくら美しくても、なにしろまだお小さくて、成人のあとこそお愉しみな方です。紫の上の器量が、やはりどなたも肩をお並べになることはできないだろうとお見受けします。光源氏様も、紫の上を一番優れていらっしゃるとお思いなのでしょうが、さすがに口に出しては美人の数の中にはお入れになりません。『この私と夫婦になるなんて、あなたは分に過ぎていますよ』などご冗談をおっしゃいます。そんなお二方の様子を私が拝見いたしましても、命も延びるようで、他にこんな素晴らしい夫婦がまたといらっしゃるだろうかと思われるのです。けれどもこちらの姫君は、その紫の上に比べても少しも劣っていらっしゃいません。ものには限度というものがありますから、いくら美しいといっても、仏様のような頭上から光を放つようなお方はあるはずもありません。ただ、この姫君のようなお方こそ、すぐれた器量と申し上げねばならないでしょう」



 とにこにこして玉鬘に見惚れるので、乳母もうれしくなるのだった。

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