玉鬘 その二十八

「三条、玉鬘様がお召しですよ」



 と豊後の介に呼び寄せられた女を見ると、これまた見たことがある顔だった。亡くなった夕顔に、長い間仕えていた下働きの女で、あの夕顔の隠れ家までお供していたものだった。右近は、その女に違いないと見定めると、まるで夢のような気がした。女主人と思われる人を、見たくてならないけれど、人々がしっかりと隠して、容易く覗き見などはできそうにない。仕方なく、



「三条というこの女に尋ねてみよう。男は、昔たしか兵藤太と呼ばれていたものに違いない。それなら玉鬘様もいらっしゃるかしら」



 と思いつくと、気が急いてたまらず、この中隔ての幕のところにいる三条を呼ばせた。ところが三条は食べるのに夢中になっていて、すぐにはやってこなかった。それが本当に忌々しくて腹を立てるのも、あんまり身勝手というものだった。

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