玉鬘 その十八

 大夫の監は肥後に帰っていき、四月二十日のあたりに、吉日を選んで玉鬘を迎えに来ようとしているので、こうして急いで逃げ出すのだった。


 姉娘のほうは、家族が多くなっているので、家を出ることはとてもできない。姉妹は互いに別れを惜しんだ。これからは逢うことも難しくなるだろうと思いながらも、妹は長い年月住み慣れた土地とはいえ、格別未練を感じなかった。ただ、松浦の宮の前の渚の景色と、この姉と別れることばかりが、後ろ髪を引かれる思いで、振り返らずにはいられなくて、悲しくてならなかった。




 浮島を漕ぎ離れても行くかたや

 いづくとまりと知らずもあるかな




 と兵部の君が詠むと、玉鬘は、




 行く先も見えぬ波路に船出して

 風にまかする身こそ浮きたれ




 と言い、本当に先行き不安でたまらなく、船の中に打ち伏しているのだった。

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