玉鬘 その十

 乳母はひどく気味悪くなって、



「どうしてそんなお話をお受けできましょう。本人はただもう尼になりたいとばかり言っております」



 と返事させると、大夫の監はますます不安になって、強引にこの肥前の国に押しかけてきた。乳母の三人の息子を呼び寄せて、



「思い通り望みを叶えてくれた暁には、お互いに心を合わせて協力してやっていきましょう」



 などともちかけた。息子のうち次郎と三郎は大夫の監の味方についてしまった。



「最初のうちは不似合いな縁談で、玉鬘様をお気の毒に思いましたが、自分たちがめいめい、後ろ盾として頼りにするには、大夫の監はなかなか頼もしい人物です。この男に憎まれたら、この近在ではとても無事に暮らしていけません。玉鬘様がいくら高貴なお方の血筋と言っても、親に子供として認めていただけず、世間にもその関係が知られないのでは、何の甲斐がありましょう。この大夫の監がこれほど熱心に玉鬘様に思いをかけて言い寄ってきているのは、今となっては玉鬘様のお幸せというものです。大夫の監と結婚するという前世からの宿縁があればこそ、玉鬘様はこんな田舎にまでさすらっておいでになられたのでしょう。今更逃げ隠れしたところで、何のこれ以上得なことがありましょうか。大夫の監が負けん気をおこして怒り出したら、何を仕出かすか知れませんぞ」



 と言って脅したのだった。

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