玉鬘

玉鬘 その一

 あれから長い年月が遥かに過ぎてしまったが、愛着のいつまでも尽きないあの夕顔のことを、光源氏は露ほども忘れなかった。それぞれに心ばえの違う女君たちと、次々恋を重ねてこれるにつけても、あの夕顔が生きていたならと、悲しくて無念でたまらなく思い出していた。


 女房の右近は、これといって取り立てて言うほどの女ではないが、やはり夕顔の形見と思うので、いたわってやっていた。今では古参の女房の一人として、あれ以来長く奉公している。


 光源氏は須磨に流浪した際、紫の上に自分の女房たちをすっかり預けた。それ以来、右近は紫の上にずっと仕えている。性質のより控え目な女房だと、紫の上も思うが、右近の心のうちで、



「亡き夕顔様がご存命なら、明石の君に負けないくらいの寵愛を受けていられただろうに。光源氏様はそれほど深く愛していらっしゃらなかった方々でさえ捨てて零落させず、きちんと末々までお世話なさるという気長なお方だから、夕顔様ならなおさらのこと、高貴な身分の方々と同列にとはいかないまでも、この六条の院にお移りになられた女君たちの中には、お入りになったに違いない」



 と思うと、いつまでもあきらめきれず、悲しくなってくるのだった。

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