乙女 その七十三

 八月には、六条の院の造営がすっかり完成して、引っ越すことになった。


 西南の町は梅壺の中宮がもともと伝領した邸なので、そのまま中宮の住まいになるはずだった。東南は光源氏と紫の上の住まいになる町だ。東北は二条の東の院にいる花散里、西北は明石の君と決めていた。もとからあった池や築山の形まで変えてしまって、四つの町それぞれに、住む女君たちの好みに合わせて造らせた。


 東南の邸は山が高く築かれていて、春の花の咲く木を、あるかぎり集めて植え、池の風情もとりわけてすばらしく、御前に近い前庭には、五葉の松、紅梅、桜、藤、山吹、岩つつじなどといった春に楽しむ木々を特に選んで植えて、ところどころに秋の草木をひとむらずつ、あちこちにさりげなくあしらってあった。


 中宮の邸宅には、元からある築山に、色鮮やかに紅葉するような落葉樹を植え、清らかな泉の水をはるかかなたに流し、遣水のせせらぎの音が、いっそう高くなるように大きな岩を立て加え、滝を落として、はるばる遠くまで秋の野を作ったのは、ちょうどその季節に合って、今をさかりと秋草が咲き乱れていた。さすがあれほど見事な、嵯峨の大堰あたりの野山の秋景色も、顔色なしというすばらしい秋の庭だった。

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