乙女 その七十二

 東の院の花散里のところでも、いろいろ分担して準備の手伝いをした。この二人の仲は以前にもまして実に優雅に付き合っていた。


 世間がこぞって御賀の準備のことで大騒ぎしているのを、式部卿の宮も耳にして、



「これまで長年、光源氏は世間の人々に対して、誰にでもお慈悲を施していらっしゃったのに、この宮家に関しては、ずいぶんと心外なほど冷たいお扱いで、何かことあるごとに、惨めな思いをさせ、我が家に仕えている人々にもお心遣いがなく、ひどい仕打ちばかりが多いのは、私を憎みお恨みになることでもあるのだろう」



 といたわしくも、また、辛くも思っていたが、また一方では、あれほど大勢世話する女君がいる中で、紫の上は格別に寵愛が深く、世にもゆかしくすばらしい方として、大切にかしずかれているので、その宿縁の余慶がたとえ里方の宮家にまで及ばないにしても、晴れがましく名誉なことと思っているのだった。その上また、これほど十分すぎるまでに自分の御賀のことを世間の大評判になるまで盛んに準備するのは、思いもかけない晩年の光栄と喜んでいる。北の方はそれが不満で、不愉快だとばかり思っていた。それは自分の娘の女御の入内のときなどにも、光源氏は何の心遣いもしなかったことを、今もいっそう恨めしいと、心の底から思っているからなのだろう。

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