乙女 その三十七

 こんなに騒がれているとも知らないで、夕霧は大宮邸を訪ねた。この間の晩も人目が多くて、考えていることを何も伝えることは出来なかったので、いつもより雲居の雁恋しさに切ない思いをして、夕暮れに来たのだろう。


 大宮はいつもならただもうにこにこと喜んで迎えるのに、今日はいつに真面目な顔つきで話すついでに、



「あなたのことで、頭の中将が恨み言をおっしゃったので、本当に辛くて困っています。どうもあまり誉められないようなことに気を取られ始め、私をはらはらさせるので、心配でたまりません。こんなことは言いたくはないのですけれど、そういうことで頭の中将がお腹立ちの事情も、ご存知なくてはと、思いますので」



 と話すと、夕霧はかねて気にかかっていた事柄なので、すぐに思い当たった。顔を赤らめて、



「何の話でしょうか。静かな学問所に籠るようになりましてからは、とかく人中へ出る折もありませんので、頭の中将がお恨みになるようなことはないはずだと思いますが」



 と言いながら、とても恥ずかしそうにしているのを、大宮はいじらしくも愛おしく思い、



「まあいいでしょう。でも、せめてこれからだけでも注意しなさいね」



 とだけ言って、他の話にそらしてしまったのだった。

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