朝顔 その九

 気持ちのおさまらないまま帰った光源氏は、まして夜中も目覚めがちに、思い続けていた。


 翌朝は早く格子を上げさせて、朝霧をぼんやりと眺めていた。枯れた秋の花々の中に、朝顔がそこここの何かに這いまつわって、あるかなきかのはかなげな風情でほのぼのと咲いている。その中で色艶もすっかりあせてしまったのを折とらせて、朝顔の姫宮に贈った。



「昨夜の素っ気無くつめたい待遇に、きまりの悪い思いがして、すごすごと帰りました。その後姿をどのようにご覧になったことかと、恨めしくて。とはいえ、




 見しをりのつゆ忘られぬ朝顔の

 花の盛りは過ぎやしぬらむ




 長い年月、積もりに積もった私の恋の苦しさを、いくら何でも可哀そうだとくらいは、お思いになってくださるだろうかと、どこかで頼りにしております」



 などと言った。

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