朝顔 その八
「〈恋せじ〉と禊ぎをしても、神は受けてくださらないと、古歌にもございますよ。その禊ぎも神はどうご覧になりましたことやら」
などと、たわいもないことを宣旨が言うのにも、朝顔の姫宮はきまりが悪く当惑するばかりだった。もともと色恋にうとい朝顔の姫宮の性質は、歳月を経ても、慎み深く控え目になさるばかりで、返事もできないのを、女房たちは側で見てやってやきもきしていた。
「お見舞いのつもりが色めいたお話になってしまって」
と、光源氏は深いため息を洩らして座を立った。
「年をとりますと、面目ない目にあうものですね。せめて、世にたぐいない恋にやつれたこのなれの果ての姿だけでも、今、通り過ぎていくかと、ご覧になっていただきたいのに、ひどく素っ気無いお扱いを受けまして」
と言って、立ち去った。
後では女房たちが、例によって仰々しいほど誉めて、噂で持ちきりだった。
いったいに空の色あいも美しいころで、はらはら散りかかる木の葉のかすかな音につけても、朝顔の姫宮は過ぎ去った日々のあわれ深い光源氏との思い出をよみがえらせながら、その折々につけて、情趣深くも、しみじみとあわれにも、いつも並々でない深い愛情を感じさせられた光源氏の気持ちなどを、思い出しているのだった。
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