薄雲 その三十六
「人生の半ばで、私が見る影もなく落ちぶれていたときに、いつか帰京の暁には、ああもしたいこうもしたいと考えていたことは、今では少しずつ叶えられました。東の院にいる花散里は、以前は頼りない身の上なのでいつも心配に思っていましたが、今ではすっかり安心できるようになりました。気立てのよいところなどをお互いに理解しあっておりますので、実にさっぱりとした間柄なのです。その後、こうして再び京に帰り、政治の後見をさせていただく喜びなどは、さほどありがたいとも感じません。ただ今でもこうした色恋のむきのことだけは、いつまでも心が抑えられない性分なのです。あなたの後見をいたしますのも、並々ではなく自分の切ない思いを押さえ込んでいることを、お分かりくださっているでしょうか。せめて可哀そうにとでもおっしゃっていただかなくては、どんなに張り合いのないことでしょう」
と言う。
前斎宮は困りきってどう答えてよいかわからず、黙り込んでいたので、
「やはり私をお嫌いだったのですね。ああ、情けない」
とだけ呟き、他の事に話をそらせてしまった。
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