薄雲 その三十一

 帝の皇子が臣下に下り、一世の源氏となって、また納言、大臣になったあと、さらに親王宣下を受けてから、帝位についた例はたくさんあった。光源氏の人柄がすぐれていることを理由にして、そんなふうに位を譲ろうかと、帝は様々に考えるのだった。


 秋の司召しには、光源氏を太政大臣に就任させるよう内定したついでに、帝はかねて考えていた譲位のことを、光源氏に漏らした。光源氏は目も上げられないほど恥ずかしく、この上なく恐ろしく思い、そんなことは断じてなさるべきではないと奏上して、辞退した。



「亡き桐壺院の気持ちでは多くの御子たちの中で、とりわけ私を寵愛くださりながらも、位を譲ろうとはついにお考えにならなかったのです。どうしてその意向にそむいて、及びもつかない帝位につくことができましょうか。ただ桐壺院のお決めになられたとおりに、臣下として朝廷にお仕えして、もう少し年をとりましたなら、出家して心静かな勤行の日々をすごしたいと考えております」



 と、常々の言葉と変わらないことを奏上するので、帝はとても残念に思ったのだった。

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