薄雲 その十三

 新しい年になった。うららかな初春の空も明るく、すべて満ち足りた光源氏の姿はこの上もなくめでたく、二条の院はきれいに磨き上げられ、正月のため、調度などもすっかり改められたところに、参賀の人々が続々と集まってきた。


 年輩の方々は、七日に来た。この日は七草で叙位の日でもあるので、お礼とよろこびを申し上げる人々が、続々と連れたって集まった。若い公達は、何の屈託もなく晴れ晴れと楽しそうな表情をしていた。それよりも身分の下の人々も、心の内には、何かと悩みを抱えているのかもしれないが、表面はさも得意そうに振る舞っている正月なのだった。


 東の院の対に住む花散里も、幸せで申し分ない有様だった。使えている女房たちや女童なども、礼儀正しくしつけて、気配りをしながら暮らしている。


 何と言っても近くに住み移った効果は格別で、光源氏も気分をゆったりした暇なときなどは、気軽に何気なく顔をみせたりする。といっても夜泊まるために、わざわざ出かけるようなこともない。ただこの人の性質はおっとりして子供っぽいところもあり、自分はこの程度の運勢に生まれついているのだろうと諦めている。。珍しいほど、気のおけないのんびりした人柄なので、折りにふれての暮らし向きの手当てなども、こちらの紫の上の生活に見劣りするような差別はつけない待遇をしている。それでこの人を誰も軽んじるようなことはできないので、人々も紫の上と同様に参上しては奉公していた。


 事務を司る係りのものたちも勤めに精励して、かえって万事が整然と運ばれていて、乱雑な面などなく、見た目にも結構な様子だった。

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