薄雲 その八

 この雪が少し解けたころに、光源氏は大堰を訪ねた。明石の君はいつもなら待ちかねているのに、今日は姫君を迎えにきたのだろうと感じ、胸もつぶれる思いがして、これも誰のせいでもない自分が招いたことなのだと悔やまれた。



「もともとお断りするのも従うのも自分の心次第なのだから、いやだと申し上げたら、それでも無理にとはおっしゃらないだろうに。つまらないことになってしまった」



 と思うけれど、今更断るのも軽率なようなので、強いて思い直している。

 光源氏は、姫君がいかにも可愛らしい姿で、目の前に座っているのを見ると、



「こんないとしい子をもうけたこの人との宿縁は、いい加減に思ってはならないのだ」



 と考えた。


 この春からのばしはじめた姫君の髪が、尼の削いだ髪のように、肩のあたりでゆらゆらとゆれておるのが可愛らしく、顔つきや目元のはんなりと匂うような美しさなど、いまさら言うまでもなかった。


 この可愛い子を人手に渡して、遠くから案じ続けるだろう明石の君の、親心の闇を察すると、光源氏はたまらなく不憫になり、安心するようにと繰り返し、夜を徹して慰めた。



「いいえ、何で悲しみましょう。せめて、私のようなつまならいものの子としてではなくお扱いくださいますのなら」



 と申し上げながらも、こらえきれずにしのび泣く気配が痛々しい。

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