松風 その四
入道がこういう上洛の計画を思いついたことは、光源氏はまったく知らなかったので、明石の君が上京を渋るのに納得いかない気持ちだった。
「幼い姫君があんな田舎に淋しく暮らしているのを、後の世にまで人の噂に言い伝えられたら、母の身分があまり高くないのに加えて、なおさら外聞の悪いことだろう」
と考えるのだった。そこへ入道が大堰の邸をすっかり仕上げて、
「こういう所領のあることを思い出しまして」
と、報告したのだった。
光源氏は明石の君が京の人々の中に出るのを渋っていたのは、こういう心づもりだったのか、とはじめて合点するのだった。なかなか行き届いた明石の君の心の配り方だと感心する。
惟光は例によって、お忍びの用はいつでも世話をつとめる人なので、今度も大堰へ差し向けて、光源氏の通いどころとしてふさわしいようにいろいろの設備を適当にさせた。
惟光は帰ってきて、
「邸の周りはなかなか景色もよくて、あの明石の海辺を思わせるところでございます」
と報告したので、そういう住まいなら、明石の君にはきっとふさわしいかもしれないと思うのだった。
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