絵合 その十五

 いかにも上手にこれ以上は描けないと思うほど、描ききった絵がたくさんあった。帥の宮もなかなか判定することができない。例の四季の風物を描いた絵も、左方は昔の名人たちが興のある様々な画題を選んでは、のびのびと筆のおもむくままに描き流してあるのが、たとえようもなく見事だった。それでも紙絵は紙の寸法に限度があるので、山や川の自然の悠々とした豊かさを、十分表現し尽くすことはできない。右方のただ筆の技巧や、絵師の趣向によって飾り立てられているだけの、今出来の深みの乏しい絵も、昔の絵に劣らず華やかで、ああ面白いと感じられる点では、かえって昔の絵にまさっている。簡単に優劣の判別が難しいので、今日は左右どちらも、聞きごたえのある様々な議論が多かった。


 朝餉の間の障子を開けて、藤壺の宮も見ていた。藤壺の宮は絵についても造詣が深いだろうと思うにつけ、光源氏も、藤壺の宮の臨席を本当に素晴らしいことだと思って、時々判定が曖昧な場合には、光源氏が言葉を挟んだ。それがまた実に適切なのだった。


 勝負は決まらないまま夜になってしまった。


 もうあと一番という最後になって、左方から、須磨の絵が出てきたので、頭の中将は動揺した。右方でも最後の巻は、特に優れた絵を選んでいたが、光源氏のような素晴らしい名手が、心ばかり思いを澄まして、静かに描いた絵の見事さは、何にたとえることも出来ない。帥の宮をはじめ、誰もが感涙をとどめることが出来ないのだった。

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