関屋 その五

 そうこうする間に常陸の介は年老いたせいか病気がちになり、何かと心細くなってきたので、息子たちにただもう空蝉のことばかり遺言して、



「どんなことも全て、この人の好きなままにさせて、私が生きていたときと変わらないようにおつかえせよ」



 とだけ、明け暮れに言い続けていた。


 空蝉も、もともと悲しい運命のために、常陸の介の後妻になったのだが、今またこの夫にまで先立たれ、終りはどんな惨めな身の上に落ちぶれ、路頭に迷うことになるだろうと、嘆き悲しんでいた。それを見た常陸の介が、



「人の命は限りがあるのだから、もっと長生きしたいと願ってもどうするすべもない。何とかして、この人のために自分の魂魄だけでも、せめてこの世に残しておけないものか。息子とはいえ、その本心はわからないのだから」



 と、心配で辛くてならないと口にもし、心に思いもしたが、やはり寿命は思うにまかせず、常陸の介はとうとう死んでしまった。

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