関屋 その五
そうこうする間に常陸の介は年老いたせいか病気がちになり、何かと心細くなってきたので、息子たちにただもう空蝉のことばかり遺言して、
「どんなことも全て、この人の好きなままにさせて、私が生きていたときと変わらないようにおつかえせよ」
とだけ、明け暮れに言い続けていた。
空蝉も、もともと悲しい運命のために、常陸の介の後妻になったのだが、今またこの夫にまで先立たれ、終りはどんな惨めな身の上に落ちぶれ、路頭に迷うことになるだろうと、嘆き悲しんでいた。それを見た常陸の介が、
「人の命は限りがあるのだから、もっと長生きしたいと願ってもどうするすべもない。何とかして、この人のために自分の魂魄だけでも、せめてこの世に残しておけないものか。息子とはいえ、その本心はわからないのだから」
と、心配で辛くてならないと口にもし、心に思いもしたが、やはり寿命は思うにまかせず、常陸の介はとうとう死んでしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます