関屋 その四

「あれからあまりにも長い間途絶えていましたので、お便りをするのも何だか気恥ずかしい気がしますが、心の中ではいつも変わりなくあなたを思い続け、あの頃をつい昨日今日のことのように思うのが癖になっています。また色めいた振る舞いだと、ひどく嫌われそうですけれど」



 と言伝を添えて手紙を渡したので、右衛門の佐はもったいなく思い、空蝉のところに持っていった。



「とにかくお返事をさし上げてください。昔より少しは私に冷たくなさるかと思っていたのに、全く昔と変わらない心のその優しさといったら、本当に世にも珍しいことです。こんなお取次ぎは無用のことと思いますけれど、私としてはとてもすげなくお断りできません。女の身として情にほだされて返事をしたところで、誰も咎めないでしょう」



 などと言う。


 空蝉は今は昔よりなおさら気が引けて、何もかも恥ずかしい気持ちだが、それでも久々の手紙に、とてもこらえきれなくなったのだろうか、




 逢坂の関やいかなる関なれば

 しげきなげきの中を分くらむ




「夢のように思われまして」



 と返事をした。恋しいにつけ恨めしいにつけ、忘れられない女と、心に深く留めていたので、光源氏はそれからあとも折々は、やはり便りをして空蝉の心を惹こうとするのだった。

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