関屋 その四
「あれからあまりにも長い間途絶えていましたので、お便りをするのも何だか気恥ずかしい気がしますが、心の中ではいつも変わりなくあなたを思い続け、あの頃をつい昨日今日のことのように思うのが癖になっています。また色めいた振る舞いだと、ひどく嫌われそうですけれど」
と言伝を添えて手紙を渡したので、右衛門の佐はもったいなく思い、空蝉のところに持っていった。
「とにかくお返事をさし上げてください。昔より少しは私に冷たくなさるかと思っていたのに、全く昔と変わらない心のその優しさといったら、本当に世にも珍しいことです。こんなお取次ぎは無用のことと思いますけれど、私としてはとてもすげなくお断りできません。女の身として情にほだされて返事をしたところで、誰も咎めないでしょう」
などと言う。
空蝉は今は昔よりなおさら気が引けて、何もかも恥ずかしい気持ちだが、それでも久々の手紙に、とてもこらえきれなくなったのだろうか、
逢坂の関やいかなる関なれば
しげきなげきの中を分くらむ
「夢のように思われまして」
と返事をした。恋しいにつけ恨めしいにつけ、忘れられない女と、心に深く留めていたので、光源氏はそれからあとも折々は、やはり便りをして空蝉の心を惹こうとするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます