関屋 その二
常陸の介の一行の車は、一部はわざと遅らせたり、あるいは先に出発させたりしたが、それでも一族の数がいかにも多いように見えた。
十台ほど並んだ車の中から、女の衣裳の袖口の色合いなどがこぼれているが見える。その色合いが田舎びず洗練されているので、目をとめた光源氏は、斎宮の下向か何かの折の物見車を思い出した。光源氏もこうして久々に世に返り咲き、華々しく栄進したので、数知れないほど前駆のものたちがお供しているが、みな、この女車に目をとめたのだった。
九月の末のことなので、紅葉の様々な色合いが混ざり合い、霜枯れの草が濃く淡く一面に美しく見渡されるところに、関所の建物から光源氏の一行が、さっと離れ出てきた。その人々の旅装束の色とりどりの裏のついた狩衣に、それぞれふさわしい刺繍や、絞り染を施してるのも、場所柄いかにもしっくりして趣があった。
光源氏は車の簾をおろしたまま、今は右衛門の佐になっているあの昔の小君を、呼び寄せて、
「今日、わたしがわざわざ関までお迎えに来たことを、よもや無視なさるわけにはいかないでしょう」
などと、空蝉へ伝言した。心の内には様々な思い出がどっとあふれてくるのだが、一通りの伝言しかできないので、どうしようもないのだった。
空蝉も、人知れず昔のことを忘れかねているので、あの頃を思い出してたまらなく、胸がこみ上げてきた。
行くと来とせきとめがたき涙をや
絶えぬ清水と人は見るらむ
こうした歌を心ひそかに詠んだところで、光源氏にはわからないだろうと思うと、空蝉は本当に侘しくてならなかった。
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