蓬生 その十三

「亡き常陸の宮が存命だったとき、私のことを宮家の体面を汚したと思われ、見捨てたので、それ以来疎遠になっていましたが、こちらはこれまでだって、どうして宮家を疎略に思ったことでしょう。ただあなた自身が高貴な身の上のように思い上がっていましたし、光源氏様などが通った運勢がもったいなく思ったので、賤しい私どもが親しそうに近寄るのも遠慮することが多くてご無沙汰していました。ところが人の世の中はこんなふうに無常なものですから、私のような人数にも入らないようなつまらない身分のものは、不運に見舞われたところで困ることもないから、かえって気楽というものです。昔は、及びもつかない人と仰いでいたあなたの身の上が、今も、そのうちにと、のんびり構えて安心しておりました。ところが今度はるばる遠国に行くことになりましたので、あなたのことが心配でおいたわしくてなりません」



 などと話し込みますが、末摘花は、気を許した返事をしなかった。



「案じくださいますのはとても嬉しいですけれど、私はこんな変わり者で、どうして一緒に行けましょう。もうこのまま埋もれて、朽ち果てようとも思っています」



 とだけ言うのだった。



「なるほど、そんなふうに考えるのもごもっともなことですが、せっかく生きている身を捨てて、こんな薄気味悪いところにお住まいになるためしがございましょうか。光源氏様がこの邸をお手入れしてくださいましたら、見違えるような玉の台にもなるだろうと、心頼みにしておりますが、今のところは兵部卿の宮の姫君、紫の上より他に、心を分けている人もいないようです。光源氏様は昔から浮気性で、一時の慰みに通われていた人々は、皆、すっかり忘れられてしまったということです。まして、そうした通いどころよりはもっと頼りない様子で、荒れ果てた藪原の中などに暮らしている人を、貞淑一途に自分を頼りにして待っていたものだと感心して、訪ねることなどは、とてもありえないでしょう」



 などと話して聞かせた。末摘花は全くその通りだと思ったので、とても悲しく、さめざめと泣くのだった。

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