明石 その三十三

 京からも迎えの人々が来た。皆陽気にはしゃいでいる。その中でも主人の入道は涙に掻き暮れているうちに、その月も八月になった。


 季節までが、折からもの悲しい秋の空の風情になったのを見るにつけても、



「どうして、自分から求めてのことながら、今も昔も埒のない色恋沙汰に、わが身を捨てて顧みないのだろう」



 と、光源氏はあれこれ悩んだ。事情を知っている人々は、



「困った人だ、またいつもの悪い癖がはじまった」



 と様子を見て、こぼしているようだった。



「これまでは、つゆほども人に様子を覚らせず、時々、こっそり人目を忍んで通う冷淡さだったのに、近頃は生憎なことに、ああもご執心では、かえって女の深い嘆きの種をまくことになるのではないか」



 などと、互いにつつきあって陰口を叩いていた。少納言良清は、明石の君のことを北山で初めて光源氏に言ったときのことなどを、人々がひそひそ噂しているのを聞くと、面白くない思いだった。

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