明石 その十四

 入道は、年も六十ばかりになるが、とてもこざっぱりした、感じのよい老人で、勤行のためやせ細って、人品が気高いせいだろうか、偏屈者で老いぼれてはいるが、故実もよくわきまえていて、むさ苦しい感じはなく、上品で趣味のよいところもあるので、昔話などさせて聞くと、光源氏はすこしは退屈もまぎれた。


 この数年来は公私とも忙しくて、いままでそれほどくわしく聞いたことのない世間の古い出来事の数々をも、入道は少しずつ話すので、



「こういう土地へ来ず、またこんな入道にも会わなかったら、やはりこんな話も聞けずに残念だっただろう」



 と思うほど、興味深い話が交じることもあった。


 入道はこれほど光源氏に近づいたが、とても気高く、気恥ずかしいほどの光源氏の様子に圧倒されて、前に、娘の宿世のことであんなことを言ってみたものの、今まで気後れしてきて、考えていることを思うように言えないのを、もどかしくて残念だと、妻と話し合って嘆いている。当の娘は、並々の身分の男でさえ、見た目のよいのは見つからない、こんな片田舎で、世の中にはこんなすばらしい人もいたのだと、光源氏を見上げると、わが身の程が思い知らされて、とても及びもつかない遠い世界の人だと思うのだった。親たちが内々、あれこれと考えて気をもんでいるのを聞くにつけても、およそ不似合いな縁だと思って恥ずかしく、何事もなかったこれまでよりは、辛く悩ましいのだった。

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