明石 その十一

 明石の浦の景色は言うまでもなく、入道が邸宅の造作に凝らした趣向や、木立、石組、植え込みなどの風情、何とも言いようもないほど素晴らしい入り江の水の風景など、もし絵を描くとしても、修行の浅い絵師では、とても写しきれないと思われた。これまでの須磨の住まいよりは、この上もなく明るい感じで、気にいったようだった。


 部屋の設備なども、申し分なく支度されていて、そうした入道の暮らしぶりなどは、なるほど都の高貴な人々の邸宅と変わりなく、優美で煌びやかな様子などは、むしろこちらがすぐれているようにさえ見えた。


 少し気持ちが落ち着いてから、光源氏は京への手紙をあちこちに書いた。紫の上のもとからやってきた使いの者が、



「今度はとんでもない使いの旅に出発して、ひどい目にあってしまった」



 と泣き沈んで、今でもまだ須磨に逗留しているのを呼び寄せ、身に余る結構な品々をたくさん授け、京に帰した。京で親しくしていた祈禱師たちや、しかるべきそれぞれの方たちには、この間からの様子を、詳しく知らせたことだろう。


 藤壺の宮へだけは、不思議にも命を拾ったことの次第などを特に報告した。


 二条の院の紫の上からの、心打たれた手紙への返事は、スラスラ書けず、筆を休め休めしては、涙を拭いながら書いた。その様子はやはり格別なのだった。

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