須磨 その二十八

 光源氏は六条御息所への返事をしたためた。その手紙の中の言葉は、さぞかしと思いやられる。



「このように、都離れなければならない身の上とわかっていましたなら、いっそ伊勢への旅のお供をすればよかったものを、などと思われます。つれづれなままに淋しく心細い気がしまして。




 伊勢人の波の上漕ぐ小舟にも

 うきめは刈らで乗らましものを




 海人がつむげきのなかに塩垂れて

 いつまで須磨の浦にながめむ




 再びお会いする日が来ることが、いつのことともわからないのが、ただもう限りなく悲しくてなりません」



 などとしたためてあった。


 このようにどちらの方々にも、心配させないように、こまごまと便りのやりとりをした。


 花散里からも、悲しい気持ちのままに、いろいろかき集めた姉妹の手紙が送られてきた。それぞれの手紙から、二人の心のほどを見るのは、情趣があって珍しい気持ちもし、どちらの手紙も繰り返し見ては、心を慰めているのだった。けれども、それがまたかえって都のことを思い出させて、物思いの種になるのだった。




 荒れまさる軒のしのぶをながめつつ

 しげくも露のかかる袖かな




 とあるのを見ても、光源氏は確かに生い茂る雑草よりほかに、頼りになる後見もない有様でいりだろうと、推量し、



「この長い梅雨に築地の所々がくずれてしまいまして」



 などと聞くと、京の二条の院の家司に命じ、都の近辺の光源氏の荘園のものなどを呼び集めさせ、花散里の邸の修理のことなどを命じるのだった。

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