賢木 その二十八

 光源氏はまず帝の御前に参上すると、帝はちょうど政務もなく、ゆっくりしているところだったので、昔の思い出や最近の出来事など、いろいろお話した。帝は顔も亡き桐壷院にとてもよく似ており、もう少し優美なところがあり、やさしく柔和であった。二人は互いに懐かしく思い、しみじみ顔を見ていた。


 帝は朧月夜と光源氏の忍ぶ恋も、まだ続いていると耳にして、朧月夜の様子にそれらしい素振りを見つけるときがあるが、どうせ、今に始まったことならばともかく、前々から続いていることなのだから、そういうふうに愛し合っても、不似合いでもない間柄だと強いて大目に考え、咎めなかった。


 様々な話をして、学問上での疑問に思っていることなどを、帝は光源氏に質問したり、また艶っぽい恋の歌に絡んだ体験談など、互いに打ち明け話をするついでに、あの斎宮が伊勢に下った日のことや、斎宮の器量がとても美しかったことなどを、帝が話すので、光源氏も打ち解けて、野の宮での、情趣深かった六条御息所との別れの曙のことまで、すっかり告白してしまった。


 二十日の月がようやく昇ってきて、風情の美しい時刻なので、帝は、



「管弦の遊びなど催したいような景色ですね」



 と言った。光源氏は、



「藤壺の宮が今夜退出するようですから、そちらにお伺いしようと思います。亡き桐壷院が遺言したことがございますし、また、私のほかには後見する人もいないようですので、東宮の御縁からも、藤壺の宮がいたわしく思いまして」



 と言った。帝は、



「東宮を私の猶子にするようにと、亡き桐壷院が遺言しましたので、とりわけ気をつけて大切にしているのですが、ことさら特別な扱いをするのもどうかと思われて。東宮には年の割りには筆跡などもことのほかすぐれているようですね。何をしてもふつつかな私の面目を立ててくださいます」



 と言うので、光源氏は、



「およそ、東宮は何事につけても、たいそう聡明で大人びたところもあるが、やはりまだ何といっても、本当に幼いですから」



 などと、日ごろの東宮の有様などを言って、退出した。

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