賢木 その二十四

 いつになく長い日数が過ぎてしまい、しきりに紫の上のことが気がかりになったので、光源氏は手紙だけは度々送っているようだった。



「世を捨てて出家できるだろうか、と試しにここに来てみたのですが、やはり無聊も慰めることができず、かえって心細さがつのってきます。まだ僧侶に聞き残した仏道の教えのことなどもあるので、もうしばらくここに滞在するつもりですが、あなたはどうしていらっしゃいますか」



 などと陸奥紙にあっさり書いたのが、とてもけっこうだった。




 浅茅生の露のやどりに君をおきて

 四方の嵐ぞ静心なき




 などと、情のこもった書きぶりに、紫の上も泣いてしまった。返事は白い紙に、




 風吹けばまづみだるる色かはる

 浅茅が露にかかるささがに




 とだけ書いた。光源氏は、



「字はほんとうに見る見る上手になられたものだ」



 とひとりごとを言って、可愛い人だと微笑んでいる。終始手紙のやり取りをするので、光源氏の筆跡にとてもよく似てきて、それにもう少し優美な、女らしい風情が添っていた。


 何事につけても不足なところのないように、われながらよく育て上げたものだ、と光源氏は満足したのだった。

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