葵 その二十一



 とても美しい人が、ひどくやつれきっていて、あるかないかの心細い様子でうち臥しているさまは、世にも愛らしくいたいたしいものだった。髪は一本の乱れもなく整えられ、はらはらと枕の上にかかっている風情など、この世にまたとないまでに美しく見えるので、長い歳月、この方のどこに不足があると思っていたのだろう、と我ながら不思議なほど、じっと葵の上の顔を見つめている。



「院の御所にもお伺いして、早々に退出してきましょう。こんなふうにいつも何の隔たりもなくお目にかかれたら嬉しいのだけれども、大宮がいつもつきっきりでいるので、私が来るのは不躾かと遠慮していたのが、それは辛かったですよ。やはりだんだん元気をお出しになって、いつものお部屋に早く戻ってください。一つにはあまり大宮が子ども扱いなさるので、恢復が遅いのですよ」



 などと言っておいて、とても美しい装束をつけて、出かけるのを、葵の上はいつもとは違って、思いのこもった目をじっとそそいで見送りながら、うち臥せているのだった。

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