葵 その十八

 少し病人の声が静まったので、いくらか楽になったのかと、母宮が薬湯を持ってきた。女房たちが、葵の上を抱きかかえて起こすと、ほどなく子供が生まれてきた。誰もが限りなく喜んだが、物の怪どもがお産を妬ましがって罵りわめいるありさまは、本当に騒々しく、後産のことが、また心配でならなかった。言葉に言い尽くせないほどの願を、たくさん立てたおかげだろうか、後産も無事に終わったので、比叡山の天台座主をはじめ、名高い高僧たちが、加持の験にさも得意顔で汗を拭きながら、急いで退出した。


 多くの人々が心の限り気を揉んで看病した幾日かの、緊張の名残りも少しはとけてほっとしながら、もうこれで大丈夫だろう、と思った。修法などは、またまた新しく加えて引き続き始めたが、まずさしあたっては、楽しいやら珍しいやらの子供の世話で、誰も皆のどかに心を和めている。


 桐壷院をはじめ、親王たち、上達部など、一人残らずお贈りになった産養いのお祝いの品々が、いかにも珍しく立派なのを、祝宴の夜毎に見ては、人々は騒ぎ立てる。しかも男の子だったので、産養いの間の儀式は、いっそう華やかに賑々しく、おめでたく行われるのだった。

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