花宴 その八

 あの朧月夜は夢のように儚かった逢瀬を思い出しては、物思いにふさぎこんでいる。右大臣が朧月夜を、四月の頃には東宮に入内させようと決めているので、朧月夜はただもうやるせなくて、思い乱れている。


 光源氏も朧月夜を探すのにまったく手がかりがないわけではないのだが、姉妹の何番目の姫君かわからない上に、特に日ごろから光源氏を恨んでいる一族と関わりあうのも外聞が悪いことだし、と思いあぐねているうちに、三月の二十日余りになった。


 新築した御殿を、姫宮たちの裳着の日に、立派に磨きたてて飾りつけた。万事派手好きの左大臣の家風で、すべてはなやかに当世風に準備が調えられていった。


 光源氏も先日宮中に会ったついでに招いてあるが、出席がないので残念がり、がっかりして、催し栄えしないと思い、子息の四位の少将を光源氏の迎えにやり、




 わが宿の花しなべての色ならば

 何かはさらに君を待たまし




 という歌を届けた。


 光源氏はその時、宮中にいたので、帝にそのことを伝えた。



「得意顔に詠んだ歌だね」



 と帝は笑って、



「わざわざの迎えのようだから、早く行ってやりなさい。そなたの姉妹の内親王たちも育っている邸だから、そなたを他人とは思っていないのだろう」



 などと言うのだった。

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