末摘花 その十一
夜になり、左大臣が退出するにあわせて光源氏も自宅へと退出した。
帝の行幸のことに左大臣が特に興味を示し、息子たちがそれぞれ舞の稽古をしたりして日々が過ぎていった。
様々な楽器の音が誰にも負けじ、と競い合っているので、いつもの管弦の合奏とは様子が違う。尺八や太鼓の音が大きく打ち鳴らし、合奏していた。
それやこれやで光源氏も暇がない有様なので、恋しいと思う女のところには何としても暇を盗んで通うのだが、末摘花のところにはすっかりご無沙汰のまま秋も暮れ果ててしまった。
末摘花のほうでは、それでも、もしや、と光源氏を待ちくたびれている間に月日だけがいたずらに過ぎていくのだった。
行幸の日が近くなって、予行演習などで騒いでいる頃に大輔の命婦が宮中に来た。
光源氏は
「末摘花はどうしているか」
など聞き、さすがに可哀想だと思っているようだった。大輔の命婦は末摘花の様子を言い、
「こうまでひどく見限られては、側のものまで辛いですよ」
と泣かんばかりに訴える。大輔の命婦のつまりでは、末摘花を奥ゆかしい方と思わせる程度にしておきたかったのに、光源氏がそれを打ち壊してしまったことを、思いやりがない、と恨んでいることだろう、と光源氏は察した。末摘花自身も何も言わず、ただ塞ぎこんでいるのだろうと想像すると、かわいそうなので、
「今はとても忙しいときなのだ。どうしようもないのだ」
と嘆息する。
「あまり人の愛情がわからなすぎる末摘花の気持ちを懲らしめてあげようと思うのだよ」
と微笑んでいる様子が、若々しくて愛嬌があるので、大輔の命婦も思わず微笑がこみ上げてくるような気がして
「困ったこと、女に恨まれる年頃だもの、思いやりが薄く、わがままでしたいほうだいなのも無理がないわ」
と思うのだった。
光源氏は帝の行幸の準備が忙しい時期が過ぎてからは、時々末摘花のところにも通うようになった。
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