若紫 その十三

 紫の上が亡くなった尼を恋い慕って泣き寝入っているところに、遊び相手の童女たちが



「直衣を着た人が来ました。きっと父上様が来たのですよ」



 と知らせてきたので、起き上がった。



「ねえ、少納言。直衣を着た人はどこなの? お父様が来たの?」



 と近づいてくる様子がとても可愛らしかった。光源氏は



「父上様ではありませんが、私にもそんなによそよそしくしてはいけませんよ。さあ、こちらにいらっしゃい」



 と言うと、これがあの光源氏なのか、と紫の上は思い、乳母の少納言に擦り寄っていった。



「ねえ、あっちにいきましょう。眠いのだもの」



 と紫の上が言うと、光源氏は



「今になってどうして隠れるのですか。私の膝の上でお休みなさいよ。もっとこちらにおいで」



 と言う。乳母の少納言は



「それ見てください。このようにまだ他愛もなく、本当に何もわからないのです」



 と言いながら紫の上を光源氏の方へ押しやる。紫の上はされるがままにそこに座った。光源氏は紫の上の体を触ってみる。柔らかい着物に、髪はつやつや、さぞ見事な髪なのだろうと思った。


 紫の上はよその男がこんなにも近くに寄ってきたのが気味悪く、恐ろしく、



「寝ようと言っているのに」



 と言って無理に引っ込もうしたが、光源氏はすっと紫の上のそばに寄ってしまった。



「もうこれからは私を頼りにするのですよ。嫌いになってはダメですよ」



 乳母の少納言は



「まあ、何ということをするのですか。あんまりな」



 と困り果てた様子だ。



「いくらなんでもこんな幼い子に何をするものか。ただ、世間に例のない私の恋心を見届けて欲しいだけだ」



 と光源氏は言った。

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