若紫 その六

 光源氏は尼と対面した。



「突然こんなことを言ったのでさぞかし軽率だと思われたことでしょう。しかし、私は本気です。仏もきっと見てくださっていると信じています」



 と光源氏が言うので、尼も落ち着き、恐縮した。



「このような縁があり、光源氏様とこうして話すことができるのも前世からの因縁でしょう」


「紫の上のお亡くなりになった母の代わりとして、私を考えてはくれないでしょうか。私がまだ幼かった頃、可愛がってもらえるはずの母や祖母に先立たれました。紫の上は私と同じような境遇です。どうか私を紫の上の仲間にして欲しいのです。こんな良い機会もまたとないので、尼君がどう考えるかを考えずに思い切って話している次第です」


「本来ならとても嬉しい話ですが、あの子について何か間違った噂でも聞かれたのではないでしょうか? 確かに紫の上という幼い子はいますが、まだたわいもない年齢でして、とても大目に見ていただけるとは思えません。どうしてもこの話は受けかねるのです」


「何もかも事情は把握していますから、そんなに堅苦しく遠慮なさらないでください。こういうことを思いつく、人とは違う私の誠意をご覧ください」



 と光源氏は言うが、尼は



(とんでもない不釣合いな話ですね。光源氏様はそうとは知らないのでこんなにまでおっしゃる)



 と考え、心を許した返事ができない。そこに僧侶が帰ってきたので



「とにかく、ここまでお話できただけでも大丈夫です」



 と光源氏は言って元の場所に戻っていった。

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