夕顔 その十四
日が暮れ、惟光が光源氏の前に現れた。光源氏は惟光を近くに呼び、
「どうだったか。やはり、ダメだったか?」
と訊いた。
「確かにお亡くなりになってしまいました。いつまでもあそこに亡骸を置いておくわけにもまいりません。明日がちょうど葬儀には良い日なので、知り合いの貴い僧に頼んでおきました」
「女房の右近はどうした」
「乱心しまして、身を投げようとさえしていました。ひとまず何とか落ち着かせ、引き止めておきましたが……」
その話を聞き、光源氏も女房の右近のことが哀れに思えてきた。
「私も、気分が悪い。死ぬかもしれない」
「何を今更悲しまれますか。これもそれも前世からの因縁です。全てはこの惟光が始末しますので」
「何事も因縁だと思ってあきらめようとしてみるけども、浮ついた遊び心から人一人の命を失わせた、と非難されるに違いない。それがひどく辛いのだ」
このようなひそひそ話をかすかに聞いていた女房たちは、
「何だかおかしいわね。穢れに触れた、と言って宮中に出仕しないのに、一方では何だか悲しんでおられる。どうも腑に落ちません」
と疑っている。
光源氏は
「良くないと思うが、もう一度夕顔の亡骸を見ておきたい。心残りでたまらないから、馬で行ってみよう」
と言う。
惟光はなんと軽率な行動だろう、とは思うものの、
「そこまで思いつめていらっしゃるなら仕方がありません。夜の更けぬうちに帰りますからね」
と言って光源氏を忍び歩き用の服装に着替えさせて一緒に出発した。
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