才能ある『夢使い』の青年と、美しき青年とが出逢う。
それは長い愛の物語の始まり――
全章に流れる時間としては約十三年の物語。
ただし彼らの関係において重要な『夢使いという職業』――彼らが出会い、そして彼らの人生が結び合わされることで、紐解かれる過去の『夢使い』の足跡も含めれば、すくなくとも百年に渡るクロニクル。
(『夢使い』は有史以来、連綿と続いてきた職業なので、その遙かなる夜の歴史のうち、月明かりに垣間見えた百年の足跡、と言うべきだろう)
夢使いの才能は、ある程度は血筋で継承されるが、親から子に遺伝するとも限らない。
隔世や遠縁くらいの関係でその才能が発現したりする。
才能を見いだされた者は、他の夢使いのもとに弟子入りし、その仕事の要訣を学ぶことになる。
夢は眠りに近しく、すなわち死に近しく、反転して生の養分ともなり、性とも切り離せない関係にある。
夢使いの在り方もまた、その「夢・眠り・死・生・性」のはざまに揺らぎ続け、危ういところがつねにある。
また、夢使いの師弟関係は、本人たちは恋愛などと無縁な比較的ドライな関係だと思っていたとしても傍から見るとだいぶん、濃い。
まあ夢使いの押しかけ彼氏がいつまで経っても焼き餅を焼くくらいには、濃い。
押しかけ彼氏のほうも、過去にいろいろあって、夢使い氏もまた、ぼんやり嫉妬しているから、まあ、一生やってなさいよ……みたいなところはあるのだが。
「できあがった」ふたりの危機は、やはり『夢使い』にまつわるところから訪れる。
押しかけ彼氏……彼が、『夢使いの歴史』のおおきさに戦き、「夢使い」のことを思って、その手を離してしまうのだ。
馬鹿なことを、と読者は思う。
なぜ、いま、あなたが「前近代」のような考えに囚われてしまうのか。
思いつつも、そうしてしまう気持ちが、やはり分かってしまう。
読者の背後にも、細かったり太かったり……「前近代」の鎖がいまもなお繋がっているから。
彼らを救うのは、丹念に語られてきた夢使いのクロニクル、その「いま」を生きる人間関係である。
彼らのまわりで育まれてきた、さまざまな愛・愛情・慈しみの関係が、「前近代」に囚われたものをもういちど繋ぎ合わせる。
そして立ち現れる夢使いの香音。
その圧倒的な福音の情景……
架空の職業である「夢使い」を現代に浮かび上がらせること、理解し合うわけではないけれども惹かれあう気持ち、さまざまな愛の在り方。
どう読んでも面白い作品です。
あと、18禁表現抜きで性愛を描くのも上手いと思います。