エピローグ

 





「今日こそ、海に参りましょう」


 朝、命婦が宣言した。


 もう準備も万端だ。


 だが、そこで、なにかが死んでる。


 成子の居室の下辺りに、烏の死骸があった。


 居室の前に整列したみんなが、顔は前を向いたまま、目線だけで、そこを見ていた。


 一番近くに居た真鍋がそちらを見ないまま、それを床下に蹴り込む。


 誰も見ていないフリをした。


 命婦が微笑み、絶対的な勢いで号令をかける。


「では、参りましょう」


「はい」

「はい、命婦殿」

とみんなが、ほっとしたように頷いた。


 そのとき、ぎゃーっ、と命婦が叫んだ。


 みんなが振り返る。


「なっ、なんでもありません。

 参りましょう。


 さあっ、斎王さまっ」

と命婦は震える手で扇をつかみ、顔を隠して、成子の手を取る。


 成子は笑って、

「替えてちょうだい。

 その扇と」

と言い、自らの扇を命婦に差し出した。


 ……笑ってる。


 命婦が手にしていたあの扇には、目があった。


 さっきの真鍋と命婦の連携した動きに、怒っているかと思ったが、笑っていた。


 っていうか、笑い声まで聞こえてくる。


 自分の手を持つ命婦の手はまだ震えていた。


 成子は少し笑って、その物の怪つきの扇で顔を覆った。


「さあ、今日こそ、海に参りましょう――」






               



                            完

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ふるべゆらゆら 櫻井彰斗 @akito1

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