前世

 




「お前の神を


  愛さない人生を――」





 

 


 風が強くなったのだろうか。


 葉ずれの音で成子は目を覚ました。


 自分の周りを霊体の黒猫が寂しそうにうろついていて、真横には生きた黒猫が生きていない魂を入れて立っている。


「成子、大丈夫か?」


 そう悪霊入りの黒猫が問うてくる。


「大丈夫か?

 泣いておるのか?」


 少しおどおどとしている風にも見えた。


 悪霊なのに……。


 いや、特に泣く覚えはないんだが、と思いながら、身を起こしたが、なにかが滴る。


 なるほど、目許が湿っているらしい、と他人事のように思い、そこを拭った。


「あのままずっと、そこに居ました?」


「ああ、まあ、一応」

と言うので。


「今、私……」

と言いかけ、いえ、なんでも、と言う。


 今のはただの夢?


 それとも……。


「成子」


 面白い声で、猫が自分を呼んでくる。


「膝に乗せてくれ」


 今の話の流れで?

と思ったが、それも悪霊らしいか、と思い、


「どうぞ」

と言う。


 珍しく少し遠慮がちに手をかけ、膝に乗ってきた。


 丸くなる。


 霊の黒猫の方が成子の周りを回り、みゃーみゃーと文句を言っていた。


「あとでね」

とその顎の下を撫でてやる。


 まあ、実際には撫でられないのだが、そんな素振りをするだけで猫は喜んでいた。


 膝が温かい。

 じんわりと伝わるその温かさと重みに不思議と落ち着いた。


 あの夢ではなく、こちらが現実なのだと知らせるようなその重み。


 もしや、私を慰めようとしてくれたとか? と思ったのだが、悪霊猫は、こちらを見もせず、ゴロゴロ激しく喉を鳴らしたあとで、寝てしまった。


 の、乗りたかっただけか……?


 霊体の猫は、ウロウロしながら、そこを退けー、と悪霊に向かい、鳴き続けていた。





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