悪巧み
「気のせいかしら。
霊が活性化してる気がするのは。
ねえ、なんで話しかけたりしたの? 真鍋」
居室に戻った成子が猫を撫でるような仕草をしながら言う。
黒猫は現実にはない喉をごろごろ鳴らしながら、成子の膝で丸くなっている。
一瞬、大真面目に、猫になりたい、と思ってしまい、こういうところに怨霊がとり憑こうとするんだな、と思った。
「その、例の怨霊に唆(そそのか)されて……」
と答えると、
「人のせいにするのか」
と床下から声がする。
「お前が成子が思い通りにならなくて暇だと――」
立ち上がり、床を蹴る。
お前、本当に俺の身体をのっとって、話を纏める気はあるのか?
成子が警戒するだろうがっ、と思ったのだが、成子は苦笑いしただけで流してくれた。
「まあ、貴方が近寄ったせいで、あの霊が活性化しちゃったのは事実よ。
責任とってどうにかして」
「……わかりました」
「私も協力するから」
と言い出す成子に、
「結構です」
と答える。
また余計なことに首を突っ込まれて、何事かあっては大変だ、と思ったのだ。
そのとき、懲りない影が背後に現れた。
「俺が居るのに……。
神様ってのは、おかまいなしだな」
「私も居るのに」
と床下の霊も言う。
「基本、神様ってやつは自分を中心に世界が回っていると思っているからな」
「ちょっと、此処で神様を冒涜するのはやめてよ」
と言いながら、成子はいそいそと立ち上がり、御簾のところまで行く。
神がそこからは入って来られないからだ。
怨霊が小声で囁いてくる。
「神は成子に自分の夢を見せて、あいつを洗脳しようとしているぞ」
「止めろよ」
いや~、力の差があり過ぎて無理だな、と怨霊は言う。
「お前、意外と使えないな」
「お前もな。
その顔と身体に成子がころっといくかと思ったが、そうでもないな」
器を変えようかな、などと言い出す。
見捨てるな……。
怨霊とはいえ、切り捨てられるとなんだか淋しい。
成子は御簾越しに神に向かい、話しかけている。
何を話しているのか知らないが、少し、嬉しそうに見えた。
開けると消える幻のようなものだから、よく見えるだけだろう、と真鍋は思った。
まるで、几帳の向こうの美しい女性だ。
想像で見ている方が遥かに魅力的だ。
まあ、成子は別だが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます