斎宮の日常

  




 怨霊が一体消えた安堵感とは別の気持ちが、今、真鍋の中にはあった。


 怨霊が居るから入れない。

 ということは、怨霊を一体、消すたびに、あれは斎王の許に近づいていくのか。


 あの神らしきものを受け入れることが斎王本来のあり方だとするならば――。


 神が道雅の身体を利用するのなら、やがて道雅は。


 何故だろうな。

 ……怨霊を応援したくなってきたぞ。







 少し感慨深げだった成子だが、朝を迎える頃には、既にいつも通りになっていた。


 いつも通り、美しく、いつも通り、淡々と、祈りや客の接待などを終えたあと。


 成子は、みなを前に脇息に寄りかかり、だらけていた。


「ああ暇ね、暇。

 そこ此処をうるさい怨霊どもがうろいている以外には。


 ねえ、道雅やっぱりいい人になりなさいよ。

 そしたら、呪って殺すから」


「貴女が呪ってどうするんですか。

 そして、今、気づきましたよ、斎王様。

 その想定だと、私、今、いい人じゃないですね……」


 力なく言う道雅の後ろで、庭の菖蒲が一斉に首を揺らしていた。

 艶やかな光景だった。


「こんなのが幾ら怨霊化しても私が倒せるか」


 床下の霊が茶々を入れ、実体のない愛らしい黒猫が居室を闊歩する。

 穏やかな斎宮の昼下がり。


 いつもと変わらぬようなその光景の中で、成子がただ一度、御簾の向こう、一点を見つめた。


 まるで、あの神の影を追うように――。




                        了

 

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