ウルトラマンエイティーとセブンの固い友情。

かとも

ウルトラマンエイティーとセブンの固い友情。




  昔、一度だけウルトラマンになったことがあります。


 エイティ-という名だから1980年、今から30年以上も前のゴールデンウィークの事。



 大学生の頃、スーパーの屋上で金魚すくいをしたり、着ぐるみで踊ったりする広告屋の短期バイト員に登録していて、その広告屋の一番人気が、ウルトラマンショーでした。


 ただ、ショーの場合はバイトの要請があっても、仕事はもっぱら会場までの機材運搬や設営というようなものでした。


 ショーは色々なパターンがあって、最初から怪獣と戦うだけの短いモノから子供たちをステージに上げて遊ばせるモノまで様々で、その年のゴールデンウィーク、その広告屋には何軒も催しが入っていたようでショースタッフが足りなくなり、なんと、エイティーという主役が、臨時アルバイトの私に舞い込んできたのでした。



 ショーの構成は、まず最初にウルトラマンエイティーとショッカーたちが戦い、エイティは難なくショッカーをやっつけて一旦退場します。


 ウルトラマンに、仮面ライダーの悪役が登場しても取り立てて文句を言う人はいない、大らかな時代でした。


ショッカーは、それなりに練習した高校生たち中心で、戦いにバク転を入れたり色々工夫をこらしていました。


 臨時の人員はショーに支障が少ないよう、おのずと動きの少ない着ぐるみに入ることになり、とりあえず決めのポーズだけ覚えてのウルトラマンデビューでした。



 ショッカーたちがやっつけてられた後、ラバーマスクを被っただけの怪人が現れて、強いショッカーを作らなければと、会場の子供たちを数人仮設ステージに上げて、当時流行っていたドリフターズのヒゲダンスを踊らせます。


 怪人は、一応どこかの劇団に入っているプロということでした。


 何故ヒゲダンスの上手い子が強いショッカーになれるのかは今もって謎なのだけれど、とりあえず楽しければ良いという大らかな時代だったのです。





 怪人が一番ヒゲダンスの上手かった子を「改造するぞ!」と連れ去ろうとするところへ、今度はウルトラセブンが現れてその子を救い、怪人やショッカー達をやっつけます。


 その時のセブンの中身も臨時だったが、最初の戦いがある分エイティの方が大変なので、確かジャンケンをして負けた私がエイティとなったのでした。





 やっつけられそうになった怪人は、反撃とばかり、今度は怪獣を呼ぶ。


 着ぐるみの怪獣が現れ、セブンと戦うが、今度はセブンがやられてしまいます。


 怪獣の中身も臨時だったが、着ぐるみのサイズの関係でこれには小柄な者が入りました。





 ここでMCのお姉さんが現れて、会場の子供たちに声をそろえてエイティを呼ばせます。


 しかし、一度呼ばれてもエイティは出ていかない。


 MCのお姉さんは「声が小さいわよ!」と言いながら、もう一度、子供たちに大きく叫ばせるのでした。


 2回目の『エイティー!』という呼び声を合図に、エイティーのテーマ曲が流れ、エイティーがスーパーの物置のドアから颯爽と登場です。




 で、無事に怪獣をやっつけても、まだ終わりません。


 MCのお姉さんが、


『本当は3分しか地球にいることはできないんだけど、今日は、皆のためにエイティとセブンが残ってくれるんです!』


と、そんな臨機応変なウルトラマンなら大歓迎、大らかな時代でした。


 ウルトラマンの絵が描いてある色紙に事前にショッカー役の高校生たちが「Eighty」ではなく「Eity」と黒マジックで殴り書きしたサイン色紙、それを買った子達とだけ握手をして、セブンとエイティはやっとM78星雲へ帰ることができるのでした。





 この日のショーのクライマックスでの事。


『エイティー!』


2回目の呼び声を聞き、エイティのテーマ曲に乗って物置から勢いよく飛び出し一旦ポーズを決めた私は、この後、重大なミスを犯してしまいました。


 怪獣をやっつけてしまってからセブンを助け起こすという段取りを間違えて、ステージに飛び出してポーズを決めて直ぐ、仮設ステージ袖で倒れていたセブンを助け起こしてしまったのです。


 怪獣に倒され、あとはエイティが怪獣をやっつけるまで寝転がっていればいいだけ、と安心していたセブンは、思いがけず直ぐに起こされてしまって、かといって、今倒されたばかりなのに急に活躍して戦いだすわけにもいかず、気を利かしたショッカーがたまに戦いに来てくれたらしいけれど、できるだけ地味に、できるだけ目立たぬよう、両手を腰に当てた基本のポーズでステージ袖で立っているしかなかったそうです。



 怪獣を倒して勝利に酔いしれていたエイティに、セブンはアドリブで握手を求めてきました。


 その時、エイティはようやく自分のミスに気が付いて、セブンと固い握手を交わしたのでした。




 円谷プロは設立50年を超え、ウルトラマンは永遠のヒーローです。


 ただ、残念なことにエイティーはとても人気がありません。


 顏の形がちょっと神経質そうなのと、テーマ曲の歌いだしが英語なのがよくないんじゃないかと… 今更ながら。

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