第250話 遺跡のお嬢様達

 ミハゾノ街遺跡にあるハンターオフィスの出張所には食堂が備わっている。一仕事終えたアキラ達はそこで食事を取っていた。頼んだ食事の料金ごとに簡単な間仕切りで3カ所に仕切られている食堂の、高額注文者用の席に座っている。食事代が10万オーラム程度になる者達用の席だがアキラ達には全く問題無い。

 ミハゾノ街遺跡の水準では比較的高ランクのハンターが座る席だ。普段はいている。だが今日は混雑していた。ぎっしりと詰まっている程では無いが、この調子が続くのであれば間仕切りの位置の調整が必要になるのは確実だ。それほど混んでいた。

 アキラはテーブルの端からその混雑の原因を見て、軽く驚きながら不思議そうな顔を浮かべていた。

「キャロル。あれ、なんだと思う?」

「どこかの金持ち、かしらね」

 メイド服の女性達と執事服の男性達、合わせて15名ほどの者達がテーブルの逆側を占拠している。その中心には高そうな服を着たお嬢様風の少女が座っていた。その少女はメイド側の統率役と思われる女性と、執事側の統率役と思われる男性を左右に立たせており、集団の主であると周囲に知らしめていた。

「メイド服に執事服、いや、それっぽいデザインの戦闘服か。うーん。高そうだ」

「実際にかなり高いはずよ。機能よりデザインを優先した上で、性能自体も落とさないためには高度な技術が必要だからね。旧世界の技術がふんだんに盛り込まれているはずだから、価格の方もどうしても上がるわ」

 少女の仕草には洗練された雰囲気が漂っており、上流階級の所作を感じさせた。この食堂で最も高価な料理を口にして、それでも味への不満を表情に出しているが、品性に欠けるような態度は出していない。

「それにしても、1人や2人ならともかくメイド服や執事服の人があれだけいると、ここは一体どこなんだって感じがするな。……メイドの怪談、ハンターがあいつらに声を掛けたら不審者と思われて消されたとかじゃないだろうな」

「どうかしらね。まあ、関わらなければ良いだけよ」

「そうだな」

 アキラ達はその集団への興味を無くして食事を続けた。

 アキラが食後のコーヒーを飲んでいると、食事中に誰かと連絡を取っていたキャロルからこれからの予定を相談される。

「アキラ。今日はもう終わる予定だったけど、午後も仕事を入れても良い? アキラが嫌なら断っても構わないわ」

「その辺はキャロルに付き合うから好きにして良いぞ。地図作りの続きか?」

「いえ、地図を売る方の仕事よ。地図データと道案内をセットで頼んできた客がいるの。あと、データの受け渡しを遺跡内でやりたいってハンターもね」

「道案内の方はともかく、データならネットで受け取れば良いのに。態々わざわざ遺跡で渡すなんて危なくないのか?」

「その辺はヴィオラが仲介した客だから大丈夫よ」

 その根拠を聞いて、アキラは逆にいぶかしんだ。するとキャロルが楽しげに笑う。

「その客が余りに馬鹿な真似まねをしたらヴィオラに責任を取ってもらう。それぐらいヴィオラも分かった上で仲介している。ヴィオラも私と殺し合う気は今のところは無いはず。アキラを護衛に付けてもいるしね。だから大丈夫。これで良い?」

「……あ、うん。分かった」

 アキラは納得はしたが、いろいろと微妙な顔を浮かべていた。キャロルが苦笑気味に笑う。

「ヴィオラは質の悪い女ではあるけど、使い方を間違えなければその質の悪さを有効利用も出来るのよ。扱い方は分かってるから安心して」

「そ、そうか。頼んだ」

 アキラの顔は納得を含んだ微妙なもので、先程より少しごまかすような笑みをにじませていた。ババロドの一件で、ある意味でヴィオラより質が悪いとちょっと思っている女性の言葉は、十分な説得力を含んでいた。


 レイナ達が遺跡の中で休憩している。都市の修復機能が再建築した無人のビルの一室で軽食を取っていた。

 そこである通信を受けたシオリが、相手との情報端末越しの話を終えて苦虫をみ潰したような顔を浮かべていた。レイナがそれを見て軽く引いていた。

「シオリ。えっと、何があったの?」

 シオリが表情を取り繕ってから答える。

「……お嬢様。クロエ様がお嬢様とお会いしたく、こちらに向かうとのことです」

 レイナが意外そうな顔をする。

「クロエが? 私に? 何で?」

「近くに来たので顔を見たい。そう答えておりましたが、詳細は不明です」

 シオリは嫌そうな顔を浮かべている。取り繕った上での表情だ。内心は表面の比ではない。その様子を見てレイナが苦笑する。

「まあ、突っぱねても疲れるだけね。分かったわ。こっちに来るのはいつ頃なの?」

「……あと15分程で到着するとのことです」

 予想外の時間にレイナが思わず顔を驚きで染めた。クガマヤマ都市までの移動に最短でも3日。準備を含めれば1週間は掛かる。その前提で考えていたからだ。

「15分って、え、クロエ、防壁の外に出てるの? っていうか、近くにいるの?」

「連絡を受けた時点で、既にこの遺跡のハンターオフィスの出張所にいたようです」

「来るの? ここに? ここ、遺跡の中よ?」

「そのようで」

 レイナは訳が分からないという顔を浮かべている。

「……何で?」

 シオリには心当たりがあった。だがそれは今の仕事に関わる事項なのでレイナには話せない。

「向こうの意図など、お嬢様への嫌がらせでなければ知ったことではありません」

 シオリの表情にレイナへのごまかしよりも内心の不満が強く出たことで、レイナには気付かれなかった。


 15分後、レイナと同じ年頃の少女が多数のメイドと執事を引き連れてレイナ達の元へやって来た。食堂でアキラが見掛けた集団だ。

 少女はクロエといい、レイナと同じ一族の者だ。

 シオリはレイナに仕えているが、厳密にはレイナの実家でもある一族に仕えている。そしてクロエもその一族の者だ。表向きは丁寧に頭を下げる。

「クロエ様。お久しぶりで御座います。本日はどのような御用向きで?」

「ん? 言ってなかったっけ? レイナの顔を見に来たの」

 クロエはシオリに上の立場の笑顔を返した。そしてレイナに向けて親しげに微笑ほほえむ。

「久しぶりね。その格好、良く似合ってるわ」

 クロエの表情も口調も、とても愛想の良いものだ。だが口にした内容は明確な挑発だ。シオリが内心を表情に出さないように必死にこらえている。クロエはシオリの予想通りの反応に僅かな冷笑を浮かべた後、今度はレイナの反応を楽しもうとするように視線を移した。

 しかしクロエの予想に反してレイナの反応はあっさりとしたものだった。

「ありがと。そっちの格好も似合ってるわ、と、本当なら言いたいところだけど、そっちは似合ってないわね」

 クロエが余裕を装いながらいぶかしむ。

「……どういう意味?」

 使用人扱いを受けたことに見苦しく癇癪かんしゃくを起こし、荒らげた声で罵倒してくると思っていた。だがレイナは全く動じていない。思い描いていた人物像とは掛け離れた態度に、クロエの表情から笑みが消えていた。

 逆にレイナは何でもないように、少し不思議そうな表情を浮かべている。

「どういう意味って、ここ、遺跡よ? ただの服だと危ないわ。観光も良いけれど、そんな服だと何かあったら大変よ?」

「ああ、そういうこと。大丈夫よ。私の部下達はとても優秀だから」

 クロエは暗に、レイナとは違って、という意味を表情で示していた。クロエ達は一族での立ち位置に応じた付き人を付けられている。付き人の人数と能力は主の能力と地位に比例している。クロエが連れてきた者達は、レイナへの自慢と威圧を兼ねていた。

 だがレイナの反応は淡泊だ。虚栄も無く、自然体で相手の挑発を軽く流す。

「そう。でも、その人達は荒野での活動に慣れてるって訳じゃないでしょう? 余計な迷惑を掛けないように気を付けた方が良いわ。まあ、私もシオリ達には迷惑を掛けてばっかりだし、人に言えたことじゃないけどね」

 レイナはそう言って冗談めいた自嘲気味の苦笑を浮かべられるほどに余裕を保っていた。逆にクロエが相手の態度からいろいろ推察してしまい、表情を僅かに険しくさせていた。

「それで、クロエの用は本当に顔を見に来ただけなの? だったら悪いんだけど、もう切り上げてもらって良い? ハンター稼業の最中で、これでも忙しいのよ」

「そんなにかすなんて、仕事、上手うまくいってないの?」

「難航中よ。残念ながらね」

 レイナとクロエが表向きは和やかに笑顔を向け合う。その裏で、たわいの無い話の中から相手の状況を探り合う。そして短い沈黙の後に、クロエが少し唐突に口を開く。

「白いカード」

 その短い単語には、事情を知る者ならば分かる意味が多数込められていた。こちらはそちらの仕事の内容も、その手段も把握している。カードの色まで知っている。全て筒抜けだ。そういった忠告、警告、揺さぶりの類いが山ほど込められていた。

 シオリの顔が僅かに険しくゆがむ。自分なりに偽装と隠蔽をしたつもりだった。それでも情報がクロエに漏れているということは、それだけクロエが有能か、あるいは情報をクロエに売った方が得だと判断した者が予想以上に多いということだ。

 シオリは内心の衝撃を可能な限り態度に出さないように努力をした。だがそれでも僅かに顔に出してしまった。それだけ衝撃は大きかった。そしてそれをクロエに見られてしまい、自分の反応からいろいろと見抜かれたことを察して、更に顔を僅かにゆがめた。

 クロエはシオリの反応に、予想通りだと満足した。だがレイナの反応を見て僅かに戸惑う。レイナは軽くとぼけているような態度を取っていた。

「白いカードって、何?」

 クロエが怪訝けげんな顔を浮かべる。

「……貴方あなた、もしかして何も知らないの?」

 レイナがあっさりと笑って答える。

「あ、バレちゃった? 実はそうなのよ」

 レイナとクロエが再び無言で微笑ほほえみ合う。その裏で相手の反応から推察を深める。そして、ここでより多く情報を引き出され、疑念を植え付けられていたのはクロエの方だった。

 レイナもクロエが探りを入れてきていることぐらいは分かっている。しかしレイナ自身は本当にほぼ何も知らないので、反応は最低限になる。その上で、本当に知らないのに、えて知らない振りをした。

 本当に知らないのか、虚栄か、それとも全てが上手うまくいっている余裕の表れなのか。クロエには分からない。シオリの反応から得た確信がレイナの反応でき乱されていく。

 お互いに微笑ほほえみながら相手の目をじっと見詰めて、相手の僅かな揺れを増幅させようとする。そして、知らないレイナは揺らがず、知っているクロエが僅かに揺らいだ。

 先程からずっと、レイナだけではなくシオリからもられている。クロエはそう考えると、自身の反応をこれ以上観察された所為せいで不要なボロを出さないように、今回はここで切り上げることにした。

「忙しいようだし、帰るわ。久しぶりに顔も見れたしね」

「ごめんなさい。本当に忙しいの。しばらくはずっと忙しい予定だから、また来るなら次は事前に日時の調整をしておいて」

「……そう。分かったわ。じゃあね」

 クロエは軽く笑ってその場を立ち去った。そしてレイナ達から十分に離れる。すると、取り繕う必要の無くなった表情が険しくゆがんでいく。

 クロエの側近で、メイド達の統率役でもあるパメラがクロエに声を掛ける。

「お嬢様。あの程度の話で済ませてよろしかったのですか? 忙しいなどと言っていましたが、向こうの事情の考慮など不要かと。お嬢様にはそれだけの地位が御座います」

 クロエはパメラの反応から自分と相手の両方の精神状態を把握すると、意図的に気を取り直して軽い様子で首を横に振る。

「良いのよ。こっちもあの場で話を続けるより一度仕切り直しておきたかった。丁度良い口実になったわ」

「左様ですか」

 パメラと同じくクロエの側近で、執事達の統率役でもあるラティスが、どこか不服そうな様子のパメラを見て口を挟む。

「お嬢様。差し支えなければ、あの場を仕切り直す必要性について教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

「交渉の前提条件が崩れたから。無能故に荒野に追い出された落伍らくご者と、その落伍らくご者を何とか元の場所に戻そうとする忠義者。たかがその程度の者達なら簡単だった。私の庇護ひご下に入って大人しくしていれば以前の生活に戻れる。そう言えば飛び付くだろう。そう思っていたのだけれどね」

「ローレンス様の歓心を買うために彼女がハンターをやらされているのは事実です。その状況を改善しようと彼女の付き人が必死になっているのも事実です。前提条件が崩れたとは思えませんが」

 レイナ達の一族の頂点に君臨するローレンスという男は、元々はハンターだった。ハンター稼業の成果を基にして事業を興し、成功し、今では東部全域に支店を広げるほどの大企業の会長となっている。企業通貨を発行する五大企業ほどの経営規模は無いが、巨大な統治企業都市を幾つも経営しており、それらの都市を事実上支配していた。

 その企業はある事情から一族経営であり、管理職は全員一族の者だ。ここまで大きな企業になると幹部の席もそれなりに多くなり、普通は血縁以外の者にも割り当てられることになる。だがローレンスが女性に無節操に手を出したことで子の数も非常に多く、孫の数は更に膨れ上がっていた。その結果、少なくない席が全て血縁で埋まり、座れなかった者達やより上位の席に付こうとする者達などの間で熾烈しれつな権力闘争が繰り広げられていた。

 レイナもローレンスの孫の一人だ。そして一族が管理する都市から出てハンターをやっているのは、落ちぶれた派閥に家族が属していたからだった。

 社内での権力闘争に敗れた者達が逆転や成り上がりの手段を社外に求める場合、最も効果的な方法はハンターとして大成することだ。

 ローレンスは社内に無数に存在する派閥に対して、ハンターを抱えている派閥を優遇する傾向があった。社内ではローレンスが元ハンターだからだと言われている。また、ハンター稼業で貴重な遺物を手に入れた時に余所よその企業に流さずに自社に持ち込めば、社内の派閥での優遇も期待できる。遺物の価値によっては、支店の管理職の席を丸ごと交換できるほどの優遇を得られる。

 勿論もちろん、外で成功する者ばかりでは無い。大抵は失敗し、荒野に飲み込まれて死んでいく。それでも成功した場合の利益に釣られて、社内闘争に敗れて冷遇され落ちぶれた派閥などが、逆転を狙って自分達の中からハンターを出していた。

 当然ながらそこで選ばれるのは、派閥としては社内に残しても無駄だと判断された者だ。拒否して一族から完全に追い出されるか、ハンターとしてでも一応一族に残るか、その決断を迫られて嫌々ハンターを選ぶのが大半だ。レイナもその一人だった。ハンター稼業に少し興味があったことを知られて、丁度良いと派閥の駒にされたのだ。

 クロエ達の基準ではレイナはその無能だった。だがクロエは先程レイナにじかに会ってその考えを改めた。

「ラティスもレイナ達の装備を見たでしょう? あれは社の装備。それもかなり高性能なものよ。本来レイナ達では借りられない品だわ」

「しかし借りてきた。そこが前提条件が覆ったと見做みなした根拠ですか?」

「総合的な判断であって、それだけではないわ。でも、あの装備だけでも、社内のかなり上位の人間と交渉して、それを成功させたのは確実。その交渉相手が誰だったにしろ、その誰かはレイナ達にあれだけの装備を貸し出す理由を聞いて、納得したのは間違いないわ。……白いカード。その単語を知るだけでも大変だったのよ?」

 クロエは軽く笑ってそう答えた後、表情を引き締めた。

「レイナ達は、か細い希望にすがって先の見えないハンター稼業を続ける愚者ではなかった。実際に会ってその情報を得ただけでも今回の成果としては上々よ。それにレイナ達が得ようとしている成果は私の予想よりはるかに大きそう。それを私達の成果にするためにも作戦を練り直さないと。そのための情報収集の時間も必要だわ。だから仕切り直したの」

 パメラが真面目な顔で提案する。

「あの者達であれば私達の戦力で十分に対処可能でしょう。成果の鍵となるその白いカードと言われているものをあの場で渡してもらう、という手段もあったのではないでしょうか? ここは荒野ですので、その類いの手段も十分許容範囲かと」

 クロエが軽く笑って返す。

「駄目よ。そういう手っ取り早い手段に慣れてしまうと、その分だけ交渉の腕が下がるわ。まあ、必要ならやるけどね」

 そしてパメラをたしなめるように微笑ほほえむ。

「それに一応は同じ一族の者なんだから、武力行使は控えましょうよ。不用意に脅す必要もないわ。レイナ達が持つ何かが生み出す成果は、社内に戻る実績としては大きすぎるはず。交渉の余地は十分にあるはずよ。まずはそっちから。脅すにしても直接的な手段ではなく、からめ手の方を試してからにしておきたいわ」

「……かしこまりました」

 パメラが若干渋々とした様子を見せているのは、自分達の実力を示す機会を欲しているからだ。クロエもそれぐらいは分かっていた。自身がより上の立場を求めるように、部下達もより上の地位を求めている。クロエはそれを当然だと思っている。

 理由は不明だが、一族の長は社内の権力争いを放置している。むしろそれを推奨しているような気配さえある。時に武力での闘争に発展しても上辺だけの注意で済ませて根本的な対処を取ろうとはしない。クロエはそれらを知り、自身もその傾向に流されていると分かった上で、それで良いと思っていた。

 優れた者がより高い地位に就く。社内の権力争いはそのふるいであり淘汰とうただ。ならば自分もその流儀に従うまでだ。そう考えていた。

 そして主側である自分とは異なり、仕えるがわであるパメラ達には上に行く手段に制限がある。社内の体系の中で、仕えるがわであるという制限から能動的に動くにも限界がある。その者達がし上がる手段は大きく2つだ。自身の力で主の地位を押し上げる。より上位の主に引き抜かれる。そのどちらかだ。

 より上位の主に気に入られようとして逆に今の主に切り捨てられることもある。部下が主を見限るように、主も無能を切り捨てる。気に入られるためにしても、切り捨てられないためにしても、自身が有能で有る証拠が必要だ。

 クロエはパメラがどちらのために成果を求めているにしても、今はそれを与える気は無かった。だが不要な不満を抑えるためにも言葉を選ぶ。

「パメラ達のお陰で私は荒野でも安心できる。助かってるわ。今はそれで満足しておいて」

勿体もったい無いお言葉です」

 深々と頭を下げたパメラの様子に、クロエは取りえずそれで良しとした。そして今度はラティスに少し得意げな苦笑を向ける。

「あとラティス、聞くまでもなく分かった上で聞いていたでしょう?」

 ラティスが微笑ほほえみを返す。

「申し訳御座いません。しかし自身の主の有能さを堪能する楽しみぐらいは頂いてもよろしいかと」

「悪いとは言わないけど、毎回聞かれるのも面倒なの。まあ、程々にしてちょうだい」

かしこまりました」

 クロエは部下達をたしなめた後、次の作戦を練りながら帰っていった。


 レイナが帰っていくクロエ達の後ろ姿を見て軽くめ息を吐く。本来自分達の都市から出ない者達が態々わざわざ荒野に出てまで会いに来たのだ。この場は引き上げたとは言っても、更に面倒事が続くのは確実だった。

 シオリが険しくも申し訳なさそうな顔をレイナに向ける。

「お嬢様。先程の話ですが……」

「ああ、大丈夫。無理に説明しようとしなくて良いわ」

 少し驚いた様子を見せたシオリに、レイナが軽く笑って続ける。

「確かによく分からないし、気になる内容ではあったけど、まだ話さない方が良いって判断してるんでしょう? それならそれで良いわ。シオリが何をしているかは分からないけど、私のためを思ってやっているのは間違いないし、さっきも私が知らないことで相手を煙に巻けたしね。だから無理には聞かない。きちんと説明してくれるまで待ってるわ」

「……。ありがとう御座います」

 シオリは主からの信頼をうれしく思い、微笑ほほえみながら丁寧に頭を下げた。

「それで、これからどうするの? また遺跡の中を回るの?」

「そうなります。ですが、しばらくここでお待ちください。別の位置情報の入手、その案内役を含めて手配を済ませております。その情報を基に次の探査ルートを決めてから出発します」

「分かったわ。じゃあもうしばらく休憩ね」

「はい」

 レイナ達のり取りを見て、カナエがニヤニヤしている。それに気付いたシオリが僅かに怪訝けげんな顔を浮かべる。

「カナエ。何?」

「いや、何でもないっす。お嬢も成長したっすねーっと、感心してるだけっすよ。あと、相変わらず仲が良いっすねーっとか、ちょっと思っただけっす」

「……ふん。当然よ」

 レイナとシオリが僅かに照れたような様子を見せる。カナエはそれを見て楽しげに笑っていた。

 しばらくすると、シオリが告げた案内役の者がやってきた。レイナ達がその者達を見て驚く。それはアキラ達だった。

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