第197話 抗う者達

 アキラ達は遺物収集を済ませて建物の外に出た。レイナが機嫌の良い様子で軽く伸びをしている。

「自動人形が手に入らなかったのは残念だったけど、普通の遺跡探索と考えれば十分な収穫だったわね」

 持ち運べる物は取りあえず持ち帰る。その感覚で集められた遺物はそれぞれが持つリュックサックを大きく膨らませていた。

 トガミは無事に外まで辿たどり着けたことに少し気を緩めていた。そしてレイナを見て自身の緩みに気付くと、自分にも言い聞かせるように声を掛ける。

「都市に到着するまでが遺跡探索だ。遺物を換金し終えるまで作戦続行中だ。その後に稼ぎを問題なく分配して、そこまでやってハンター稼業一区切りだ。レイナ。気を緩めずに行こう」

「分かってるわ。ここもまだ遺跡の中だしね。あ、そうだ。アキラ。遺物をアキラの車で運んでもらっても良い? ……私達の車の荷台だと、ちょっと狭いから」

「分かった」

「ありがとう。助かるわ」

 これで少々気恥ずかしい種類の遺物を近くに置かずに済む。レイナはそんな内心を隠すように微笑ほほえんだ。

 アキラ達は出発の準備を手早く済ませると、各自の車に乗って出発した。


 クロサワ達は2体の自動人形を何とか破壊した。

 ハンター達が多少の被害を出しながらも態勢を整え直し、射線を合わせて自動人形達を壁際に追いやった。そのまま点ではなく面での攻撃になるほどに大量の銃弾を撃ち続け、着弾の衝撃で自動人形達を壁に貼り付けるように押し続けて、その動きを何とか封じ続けた。

 その隙にクロサワが銃を砲撃型に変形させ、移動不能となった目標に戦車砲に匹敵する一撃を食らわせた。頑丈さの面でも高性能な旧世界製の自動人形だが、旧世界製の自動人形との戦闘を想定して用意していた砲弾の直撃には耐えきれず、ようやく機能を停止した。

 破壊された自動人形はそれでも十分原形をとどめており、一部破損しただけでまだまだ動きそうに見えた。クロサワは念のためにもう1発ずつ砲弾を撃ち込み、それでようやく勝ちを断定した。

「高い弾を使わせやがって。被害は?」

「4人重体だが全員生きてる。かばわせて動きを制限させるためえて殺さなかったのか、鎮圧目的で戦闘不能にすれば十分だったから加減したのかは分からんがな」

「どっちでも良い。すぐに治療しろ。助かるなら死なせるな。残弾を再確認。偏っていたら均等に分配し直しておけ」

 ハンター達が急いで作業を始める。部屋の出入口付近に戻ったクロサワが険しい表情で警戒を続けていると、一人の男が浮かない顔でやって来る。

「どうした? 問題か?」

「……いや」

「ここは俺だけで良い。手のいたやつは休憩に入らせろ」

 自分が視線を外しても戻ろうとしない男に気付いて、クロサワが少し怪訝けげんそうな顔をする。

「どうした?」

「……いや、……すまん。お前の指示通り事前に破壊しておくべきだった」

「そんなことか。気にするな。あの時点では破壊しないという選択も別に誤りじゃなかった。賭けてコインを投げたら裏が出た。それだけだ」

「いや、だが……」

 いろいろと気にしている様子の男に、クロサワが真面目で険しい表情を向ける。

「そして気にしている場合でもないんだ。自動人形は最低でもまだ後3体残っている。専門業者の部隊が到着するまで、俺達だけで持ちこたえなければならない。余計なことを気にするな」

 男の顔に動揺が浮かぶ。

「ロディンを襲ったやつは追い払ったし、あの2体も逃げていったんじゃないのか?」

「援軍を連れて戻ってくる可能性もある。武器を取りに行っただけの可能性もある。俺達はまだ生き残ろうとしている途中だ。余計な後悔は最低でも専門業者の部隊が到着した後まで取っておけ。全ては生き残ってからだ。他の連中にもそう伝えておけ」

 男が余計な後悔を消した厳しい表情で戻っていく。クロサワが軽くめ息を吐いてつぶやく。

「……そろそろ到着しても良い頃なんだが、何かトラブルでもあったのか? 勘弁してくれ……」

 余計な嘆きを聞かせて意気を落とし混乱を招くような真似まねは避ける。悲観的な状況で悲観的な顔は出さない。クロサワは軽く頭を抱えた顔をハンター達に向けないように注意していた。


 アキラ達はイイダ商業区画遺跡の主要部分、植物で覆われた施設群の隙間を抜けて、緑の地面が広がる外周部まで来ていた。

 アキラが運転席で機嫌の良さそうな顔を浮かべている。

『特に考えずに荒野に出た割には、意外に稼げた日になったな』

 助手席のアルファが微笑ほほえみに軽いあきれを混ぜている。

『アキラ。念を押しておくけれど、それは行き当たりばったりで動く癖を肯定する要素ではないわよ?』

『分かってるって。でも久しぶりの遺跡探索が成功に終わったことを喜んだって良いだろう? おっと、都市に到着するまでが遺跡探索だったか』

 アキラは軽い気持ちでそう言っただけだった。だがアルファが表情を急に真面目なものに変える。それを見たアキラが僅かにたじろぐ。

『アキラ。警戒して』

『いや、分かってるって。そんな顔をしなくても……』

『違うわ。後方に反応よ。追いかけられているわ』

 アキラは意識を即座にアルファの表情に応じた臨戦に切り替えた。

『モンスターか?』

『定義にるわ。人型の反応が2つ、かなりの速さでこちらに向かってきているの。強化服や義体者が急いで走れば似たような反応になるわ。でも相手がハンターで何か用があるのなら、短距離通信ぐらい送ってくるでしょう。友好的な反応とは思えないわね』

 アキラは車の運転をアルファに任せて席を立つと車両後部の貨物部に移動した。そこで装備を整え直すと、車両後部の扉を開けながらレイナ達の車両に通話要求を送った。

 開きかけた扉から後続のレイナ達の車両が見える。運転席のレイナと助手席のトガミがアキラの様子を見て不思議そうにしている。アキラが視線を更に奥に移すと、情報収集機器が反応の元を捉えて該当箇所を拡大表示する。植物に覆われて走りにくくなっている地面の上を、旧世界風の服を着た男女が身体能力に物を言わせて高速で走っていた。

「何だか知らないけど後ろから追ってくるやつがいる。トガミ。取りあえず対処方法の指示を……。避けろ!」

 アキラがそう叫ぶのと同時に、アルファが車の進行方向を急激に変えた。大きく揺れる車体の中で、アキラは後ろの女が筒状の物を握り、筒の先から光刃を伸ばして大きく振りかぶったのを見ていた。


 アルファがアキラに後方の反応を伝えた時から少し遅れて、カナエもその反応に気付いた。

あねさん。後ろから何か来てるっすよ」

「……そのようね」

 シオリはカナエの相変わらずの察知能力に舌を巻きながら後方への警戒を高めた。そして振り返ってその何かを確認すると怪訝けげんな顔を浮かべる。

「モンスター……ではないわね。人?」

「人に見えるっすけど、この辺のハンターの服装じゃないっすね。あの速さだとじきに追い付かれるっすけど、落とし物を必死になって届けようとしてくれる親切な方々……にはちょっと見えないっすね」

「お嬢様。後ろから……」

 シオリがレイナに注意を促そうとした時、車載の情報端末からアキラの、避けろ、という怒鳴り声が響いた。ほぼ同時にシオリがレイナを、カナエがトガミを後ろからつかみ、そのまま即座に車から脱出した。

 一瞬遅れて、後方の女が勢いよく振り下ろした光刃から飛んだ斬撃がレイナ達の車両を両断した。左右に分かれた車体が慣性に従って前に進み、傾いて地面に接触した後、派手に横転して地面を転がっていく。

 アキラ達を追っていた男女は、メイド服の自動人形に合流した2体の自動人形だった。女性型が再度光刃を構えながらシオリ達との距離を詰めていき、男性型が拳銃のようなものを持ちながらカナエ達の方へ向かっていく。シオリがレイナをかばいながら応戦の体勢を取り、カナエがトガミに下がっていろと手で指示を出す。

 その時、2体の自動人形が大量の銃弾を浴びて後方へ吹き飛ばされた。アキラが両手にSSB複合銃を持って少し横方向に移動していた車両から銃撃したのだ。通常弾の通常弾倉がミニガン並の発射速度で撃ち出され、瞬く間に空になる。

『アルファ! 倒せたか!?』

『残念ながら大して効いていないわ』

 アキラが空になった弾倉を銃から排出し、圧縮された体感時間の中で銃から両手を離し、近くの弾倉を素早く手に取って宙に投げ、再び銃をつかんで器用に弾倉に押し当てて装填を完了させる。

『通常弾とはいえこの発射速度で撃ったんだぞ!? 頑丈すぎるぞ! 何なんだあれ!』

『恐らく旧世界製の自動人形よ。性能もそれなりに高いようね』

 アキラはクズスハラ街遺跡の廃ビルで人形の群れと戦った時のことを思い出すと、納得しながら顔をゆがませた。

『道理で頑丈な訳だ! 遺物を欲張ってたくさん持ち出したから、取り返しにでも来たのか?』

『良いから撃ちなさい。返り討ちにすれば遺跡探索の成果が増えるわ』

『そうだな!』

 アキラが制圧射撃を再開する。都市に到着するまでが遺跡探索という言葉を思い出して、妙なことを口にした結果かとも思い、僅かに苦笑していた。


 アキラの援護射撃は自動人形達の動きを確かに鈍らせ制限していた。しかし破壊にはほど遠い。

 レイナとトガミは状況を把握するのが精一杯で状況への対処が遅れていた。

 シオリが無数の対処案を思い浮かべながらアキラの方に視線を移す。全く聞こえないが何かを叫んでいるその様子を見て、急いでこっちに来いと言っていると判断すると、真面目な表情でカナエと視線を合わせて意思の統一を図る。カナエは笑って返した。

「お嬢様! 失礼します!」

「トガミ少年! 我慢するっすよ!」

 シオリがレイナを、カナエがトガミをつかんだ。そして説明もせずに、返事も聞かずに、アキラの車両に向けて勢いよく投げ飛ばした。

 レイナとトガミが混乱したまま水平に宙を飛ぶ。アキラはシオリ達の挙動に気付くと、驚きながらも銃撃を止めて両手の銃を上に放った。そして右手で少し乱暴に飛んできたトガミをつかんで奥に激突するのを防ぎながら、左腕で同じく飛んできたレイナを抱き締めるようにして衝撃を抑える。その後でレイナ達から手を離し、落ちてきた銃を再度つかんだ。

 アキラがシオリ達と自動人形達に意識を戻す。シオリ達はおとりと足止めと時間稼ぎを兼ねてレイナ達を投げた直後に自動人形達に向かっており、既にそれぞれの相手と至近距離で交戦していた。

 アキラはレイナを逃がそうとするシオリ達の意図を理解した上で、驚き慌てているレイナとトガミに視線を移す。そして少し考えると、レイナ達の横を通り過ぎて車内にめていたバイクの方に向かった。


 レイナは混乱の中にいた。目紛しく変わった状況に付いていけず、五感から伝わる情報も頭の中を通り過ぎるだけで、意識の立て直しには全く役に立っていなかった。

 そのレイナの横をバイクに乗ったアキラがかなりの勢いで駆け抜けていく。レイナも流石さすがにそれには反応して驚きながらバイクの方に視線を向けた。バイクはそのまま車から宙に飛び出して難なく着地すると、シオリ達の方へ加速していく。

 遠ざかっていくシオリ達の姿。そこに向かっていくアキラの姿。それらの姿から置いていかれたように、取り残されたように、逃げていくように離れていく自分。レイナがそれを感じ取った途端、頭の混乱は湧き上がった悔しさと無力感に一気に押し流された。

 感情に押し流されたレイナが車から飛び降りてシオリ達の方へ行こうとする。それに気付いたトガミが慌ててレイナを力尽くで止める。

「離しなさいよ!」

「ちょっと待て! ここで降りてどうするんだ! 落ち着け!」

「離して! 離してよ! ここで、ここで逃げたら、私、また……」

 レイナが泣きそうな顔でトガミを払いのけようとする。トガミもどこか悔しそうな表情で必死になってレイナを止めた。

 トガミもレイナの気持ちはよく分かった。あの日、セランタルビルで自分の弱さを見つめ直してから、必死になって積み上げてきたものが崩れようとしている。つらい訓練をして、ハンター稼業で成果を出して、少しずつき集めてきた自信や支えが折れようとしている。

 強くなったつもりになっていただけで、調子に乗っていただけで、何かあれば結局はかばわれるだけの、守られるだけの、あらがう力などない存在だったのだ。そのどうしようもない認識が、自分を押し潰そうとしている。トガミはレイナも同じ気持ちだと感じていた。

 トガミがその認識に何とか耐えられていたのは、最悪の場合レイナだけでも逃がさなければならないという、チームのリーダーとしての思いなどからだった。リーダーとしてするべきことが、トガミを何とか支えていた。

 そしてそれがないレイナは今にも崩れようとしていた。シオリとカナエをおとりにして、アキラまで残して、自分だけ助かろうとしている。どうにかする術も力もなく状況に流され続けている。ここで車から飛び降りても状況は改善しない。足手まといが中途半端な場所に取り残されるだけ。自分が安全な場所にいると思っているシオリ達がそれに気付いてしまえば、更に足を引っ張ることになる。その事実がレイナの心を穿うがっていた。

 トガミは弱々しくなっていくレイナの動きに安堵あんどしながらも、胸に強い痛みを覚えていた。だがそれでも何とか役目を果たそうと、恐らくは自動操縦になっている車の状態を尋ねるためにアキラに連絡を取ろうとする。

 情報端末からアキラのどこか他人ひと事のような声がする。

「何だ? 今忙しいことぐらい分かってるだろう?」

 トガミがそれに答える前に、レイナが残った気力を振り絞るように叫ぶ。

「アキラ! どうして置いていくのよ! いるだけ邪魔だから何もせずに離れてろって言いたいの!? 黙って逃げてろって言いたいの!? そうなの!?」

 膨れ上がった自虐が止めを欲した叫びでもあり、辛うじて残っていた支えが発した抵抗の叫びでもあった。どちらにしろ、そうだ、と返されればそれでレイナの心は折れた。

 だがレイナが予想した言葉は返ってこなかった。代わりに怪訝けげんそうな声が返ってくる。

「いや、遠距離からの援護射撃をすごく期待しているんだけど。遺跡で見せた腕ならその距離でも当たるだろう?」

「…………えっ?」

 レイナが少し間を空けてから、我に返ったようにもまた混乱状態に戻ったようにも聞こえる短い返事をすると、アキラが不満そうな声を戻してくる。

「えっ、じゃない。そっちの車はある程度離れた後に周囲をうろちょろするような自動運転設定になっている。離れすぎるようなら俺に連絡するかどっちかが自分で運転してくれ。車の機銃を使っても良いけど、設定とか全然調整してないから誤射に十分気を付けてくれ」

「え、あ、うん?」

「投げ飛ばされて気が動転してるんだろうがとっとと落ち着いてくれ。シオリ並みの近接戦闘技術がないと接近戦で邪魔になるから投げ飛ばされたんだろうが、その鬱憤は後でシオリ達に自分でぶつけてくれ。俺にぶつけられても困る」

「ご、御免なさい」

「その辺の弾薬は好きに使って良い。たっぷり積んであるはずだ。だから、弾切れでもう援護は無理になったから邪魔をしないように逃げる、とは言わせねえぞ」

 レイナが表情を一変させて怒鳴り返す。

「だ、誰が逃げるって!? ふざけないで! 逃げないわ!」

「そうか。じゃあ、頼んだ」

 それでアキラとの通信が切れた。レイナがもう通信は切れたことを分かった上で叫ぶ。

「頼まれたわ!」

 レイナは歓喜を誤魔化ごまかすように怒りの表情を浮かべた。

「トガミ! 逃げるなんて言わせないわよ!」

「当たり前だ!」

「そう来なくっちゃ!」

 レイナは体中に強い意気を込め直した。湧き上がった覚悟を大きく息を吸って指先、足先、頭の先までみなぎらせた。

「やってやるわ!」

 トガミは意気を取り戻したレイナを見て自分のことのようにうれしそうに笑うと、自分も弱気を頭から追い出した。

 折れ掛かった支えはより強固となった。状況は全く変わっていない。だがレイナ達が状況に流される者からあらがう者に変わったのは確かだった。


 両手にSSB複合銃を握ってバイクに乗るアキラの横で、アルファが少し怪訝けげんな顔を浮かべている。

『アキラ。あれで良かったの?』

『同行者の義理は果たしている。レイナ達が逃げずに死んでも俺の所為じゃないな。俺は護衛を頼んでもいないし、引き受けてもいない。そうだろう?』

 シオリ達をおとりにして逃げれば借りになる。それでシオリ達が死ねば更に借りになる。少なくともアキラの基準ではそうなる。アキラがシオリ達を助けに行った結果レイナ達が死んだとしても、それでシオリ達に恨まれたとしても、アキラには然程さほど関係ないことだ。少なくとも、シオリ達を助けに行かなかった場合より、気にする程度は大いに下がる。アキラは自らの優先順位に従って車から飛び出したのだ。

 アルファがれ見よがしにめ息を吐く。

『それで、私はどの程度サポートすれば良いの?』

『死なない程度に頼む』

『分かったわ』

 アキラはその対象を話さず、アルファも聞き返さなかった。


 シオリが女性型自動人形との距離を詰めながら刀の機能を起動させる。刀身を震わせ輝かせ、強化服の身体能力を得た肢体が生み出した敏捷びんしょう性を刀に乗せて瞬時に斬り払う。その刃からは発光する粒子が生み出す切断能力を持った波が、明らかに間合いの外の物体の両断を可能にする光刃が飛んでいた。

 本来ならば、敵が間合い外に飛び退いてかわそうとしても伸びた光刃に両断される必殺の斬撃だ。だが女性型は刀身の実体を見切って大きく飛び退きながら、実体から伸びた光刃を自身の光刃で受け止めて拡散、減衰させて防ぎきった。

 飛び散った光がシオリの険しい表情と、女性型の余裕すら感じさせる能面のような無表情を照らして、その陰影を攻防の優位を示すように際立たせた。

 女性型が光刃を振るう。シオリは副作用を抑えて効果時間を延ばした低濃度の加速剤を服用しており、その光刃の動きを見切り、はじいて敵の体勢を崩すために、敵の光刃を自分の刀の実体部で受けようとする。だがそこで光刃の揺らぎに気付くと、反射的に完全回避行動に切り替えた。

 女性型が振った光刃は、シオリの刀を通り抜けてその場の空間を両断した。刀は無傷だが、その先にあった地面の植物は焼け焦げながら地面ごと切り裂かれていた。

(ブレードの実体の有り無しを切り替えられるタイプ! 厄介ですね!)

 女性型の武器は伸縮式の警棒に近い遺物だ。自動人形本体のエネルギーを動力源にすることで本来の性能を超えた出力を実現させていた。それにより縮めた状態でも近距離ならば十分な切断力を保持していた。

 敵は強力で、レイナをかばいながら戦っていてはまもりきれない。シオリはそうと判断してレイナをアキラの車両まで投げ飛ばした。更にアキラの車まで破壊されるのを防ぐために、女性型の再度の攻撃を防ぐために、レイナを確実に逃がすために場に残った。その判断が正しかったことに安堵あんどしながらも、当初の予想より女性型が強力だったことに顔をしかめていた。

 シオリと女性型が高速で動きながら互いの刃を振るい続ける。光刃が振るわれるたびに僅かに残る光の軌跡が、その攻防の激しさを宙に刻み続けていた。


 男性型自動人形の腹部にカナエの蹴りが突き刺さる。蹴り飛ばされた男性型は自分でも後方に飛び退いて蹴りの威力を減衰させる。そして着地というより地面に脚を突き刺してのブレーキに近い形で地面に長い線を書きながら体勢を立て直すと、拳銃のような遺物をカナエに向ける。そこから曳光えいこう弾が描く射線にも思える光弾が一直線に発射された。

 カナエは射線を見切って右手から発生させた力場装甲フォースフィールドアーマーの障壁でそれを防いだ。はじかれた光弾が鈍角の線を描いて荒野に消えていく。更に3度光弾が発射される。カナエはそれを左右のてのひらで同様に防いだ。

 男性型が能面のまま動きを止める。カナエは挑発的な笑顔を浮かべていたが、急に軽いめ息を吐いて不満そうにつぶやく。

「あー、駄目っすね。人型相手の格闘戦でも、機械が相手だとサンドバッグを殴っているのと同じっすね。つまらないっす……」

 結構楽しめるかもしれない。その期待が消えるのと同時に心が冷めていく。カナエから笑顔が消える。

「とっとと壊すか」

 起伏の消えたつぶやきを残し、カナエが冷徹な表情で男性型との距離を素早く詰めていく。再度撃ち出された光弾を、射線を見切った必要なだけの回避行動で、射線をかすめるような僅かな動きで避けていき、一瞬で男性型を間合いに収める。

 密着手前の至近距離でカナエが右拳を男性型の胸にたたき込む。闘争の歓喜など欠片かけらもなく、対象への興味もないが故に効率のみを突き詰めて繰り出した一撃は、旧世界製の衣服の頑丈さと、旧世界製の自動人形本体の強靭きょうじんさを突破して、男性型の胸部に損傷を与えた。

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