第54話 入院
キング・フォレストボアを、無事? 討伐した僕達は、何とかビストレフの町に戻って来た。
結局、着地の際に僕の右足は折れてしまったようで、フォレストボアと一緒に大八車に乗せられて宿営地まで戻った。
いくら丈夫になったとは言え、フォレストボアの突き上げと、着地の衝撃には耐えられなかったのだろう。後、ナビちゃんから貰った御守りも無かったしね。
宿営地に戻った僕は、直ぐに着替えを済ませた。いつまでも濡れてる服を着ているのは気持ち悪いしね!
しかし、その間にひなぞーと武さんの2人が、また森に行ってしまったのだ。
当初の目的であるクエストを、完了していないと言い出したようだ。まぁ僕のポーチから爆弾を持って行ったので、直ぐに戻って来るだろう。
それにしても、怪我人を置いてクエストを優先するだなんて……。
「リョウ達は、何を持って行ったの?」
「爆弾」
看病の為に残ってくれたレイラの質問に、素直に答える。別に隠す事じゃ無いしね。
「爆っ!? ――そんなものがあるなら、さっきの戦いで使えば良かったのに」
「……あ……」
船の中に、微妙な空気が流れたのだった。
まぁ討伐できたのだから、良しとしようじゃないか!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
そして現在、僕はイノシシ満載の大八車の上に乗り、ギルド目掛けて移動している所だ。
出発が遅れた為、痛み止めの効力が切れ、まともに動けないのだ。まぁ足も折れているから、どの道歩けないんだけどねー。
キング・フォレストボアが、ちょうど良いクッションとなり衝撃を抑えてくれているが、舗装されていない道はなかなかに凶器だ。
「戻ったか!!」
ちょうどギルドに到着したところで、マスターの声が聞こえてきた。声の感じからどうやら相当焦っているみたいだ。
「本部からキング・フォレストボアの討伐命令は来るは、お前達は戻って来ないはで、心配したんだぞ」
「それでも、無事帰って来てくれて良かった」
どうやらスルトも一緒のようだ。
無事と言っても、みんな大なり小なり怪我は負っているんだけどね。1番の重体は、当然ながら僕。
その後も、ウィルディさん達ギルドの職員や、ヒルシュさん達のパーティ。さらには他の冒険者達まで集まっているようだ。
体が動かせないので、正確には分からないが、それなりの人数が集まっているのだろう。
「ねぇ……イズミは何処?」
そんな中、ウィルディさんの声が静かに響いた。
今まで帰還を喜ぶ声で埋まっていたギルド前が、嘘のように静まり返る。
「あっイズミなら……」
「あいつは……キング・フォレストボアから俺らを逃がすために……」
せっかくレイラが説明してくれそうになったのに、ひなぞーが割り込んで来た。
「あぁごめん、ごめんよ和泉さん! オレがもっと早く気がついていれば……」
武さんまで話しに参加し始めた。
それなりしても、全部本当の事を言っているのに、肝心なところは言葉を濁すとか、本当にタチが悪い。
「嘘! 嘘よね……イズミが……そんなっ!」
「姉さん」
「ウィル姉さん」
あ~あ、ウィルディさん達完全に誤解しているよね? 本当に、こんな時に動かない体が恨めしい。
(マジか……イズミが死んだのか?)
(今考えれば、容姿がアレなだけで、結構良いやつだったよな)
(ああ、容姿はアレだったが良いやつだった)
そこかしらから、僕を惜しむ声が聞こえて来る。その声は、主に男性冒険者の声のようだ。
てか、容姿がアレって何だ! 可愛いだろうが!
「そうか……優秀な魔砲師を亡くしてしまったな」
「バカ者が! 年寄りよりも先に逝きよって!」
あちゃーマスターやスルトまでもが、信じちゃったよ。これ、今更生きてましたって言いづらいなんてレベルじゃないぞ。
「あぁーーーー」
遂にウィルディさんが泣き出してしまった。
もう絶対に無理じゃん! これで名乗り出たら、逆に殺されるよね!?
どうする? どうするの、僕!?
体は動かないし、そもそもなんて言えば良いのか分からずにいると、レイラがおずおずと声をあげてくれた。
「あのー皆さん。イズミならまだ生きてますよ?」
『ハァ!?』
まぁそう言う反応になるよね。とりあえず、病院に連れて行ってもらえませんかね?
僕はキング・フォレストボアの上で、小さくため息をついた。
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その後、激怒したマスターとスルトに捕まったひなぞーと武さんをギルドに残し、僕は病院まで移送中だ。
移送中と言っても、ギルドから借りた大八車に無造作に乗せられ、町中を爆走しているんだけどね。
大八車を引いているのはウィルディさんで、隣をヴェルさんが並走してくれている。
町中を爆走すること数分。遂に暴走大八車が止まった。止まったと言うことは、病院に着いたのだろう。
「イズミ、大丈夫? 痛いよね? 直ぐに診てもらうからね!」
ウィルディさんが、優しい手つきで僕を抱き上げてくれるが、そこら中が骨折しているので、どうしても激痛が走る。
「エイル助けて! イズミが、イズミが大怪我を!」
病院と思わしき建物のドアを、やや乱暴に蹴破ると、ウィルディさんが大声で叫んだ。
多分呼んだのはお医者さんなのだろう。
「ちょっとウィルディ? いつも言っているでしょう~病院ではお静かにって~」
建物の中から聞こえて来た声は、女性のものだった。
まったりとしていて、優しい感じがする声だ。
「あらあら~また派手にやったわね~ダメよウィルディ、いくら胸をバカにされたからと言っても、ここまでやったら犯罪よ?」
「違うわよ、バカエイル!!」
ぎゅっとウィルディさんの腕に力が入る。
女性に抱きしめられると言う、DTには夢のようなシュチュエーションなのだが、いかんせん圧迫感が半端ないと言うか……。
「もう姉さん! 今はそれどころじゃないでしょう!! エイルさん、イズミちゃんは、今クエストで大怪我を負って戻って来たところなんです。早く診て下さい!」
「あら~ヴェルちゃんじゃない~元気してた~」
「もう! エイルさん!!」
あぁこの病院はダメかもしれない。
僕は、薄れゆく意識の中で、そう感じた。
「知らない天井だ」
目が覚めて、目に入って来た光景は、今まで見た事がないほど白い天井だった。
強いて言えば、ギルドの医務室が近いだろうか?
「目が覚めた~?」
声は直ぐ横から聞こえてきた。確かこの声は……。
「エイルさん?」
「あら~もう名前を覚えてくれたのね?」
顔を向けると、そこには美女が立っていた。
淡い翡翠色の髪を三つ編みにし、細い目が柔らかい笑みを浮かべている。
全体的にスレンダーな体型なのだが、その胸部には、この町1番の大きな果実が装備されていた。
もうなんて言うか、メロン? 小玉スイカ?
「そんなに見つめられると、恥ずかしいわ~」
「はっ! ごめんなさい、ごめんなさい!」
しまった、余りにも立派な果実だったものだから、思わず凝視してしまった。
「大丈夫よ、イズミちゃんも大きくなるわ~」
いえ、大きくなると困ると言うかなんと言うか……。
それから改めて自己紹介をし、今回の怪我の状況を教えてもらった。
主な怪我は、左肩から腕にかけての複雑骨折、肋骨並びに右足の骨折。各所に打撲と内臓のダメージだろう。
打撲と内臓のダメージは、ポーションの力で粗方治っているそうだが、まだ完治までは至っていない。
骨折の方は数週間はかかるだろうと言われてしまった。
複雑骨折が数週間で治ると言うのは驚きだ。
「と、言うことで~イズミちゃんはしばらく入院ね」
エイルさんが、嬉しそうに言ってくる。
多分だが、彼奴らに僕の看病を頼むのは、自殺行為だと思う。だからと言って独りで生活出来るのかと言われても、答えはNOだろう。
「すみません。お手数おかけします」
「いいのよ~こんな可愛い子としばらく一緒にいられるのだもの。役得だわ~」
こうして、僕の入院生活が始まった。
エイルさんの話しでは、怪我が完治する頃は雨季の真っ只中なので、しばらくはゆっくりと休めそうかな?
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